◎20年11月


銀花の蔵の表紙画像

[導入部]

 1968年夏、9歳の銀花は両親と路地の奥に小さな家が五軒くっついて建っている文化住宅に住んでいた。 父は画家で、写生旅行に出かけるたび、おみやげを持って帰ってくる。 電話が鳴り銀花が出る。 オモチャ屋からだった。 銀花は急いで家を飛び出す。 うどん玉を買いに行った母がうどん屋隣のオモチャ屋で万引きをしたのだ。 母はときどきお店の物や他人の物を盗んでしまう。 そして盗った後で後悔して泣く。

[採点] ☆☆☆☆

[寸評]

 主人公・銀花とその家族を巡る約50年にわたる物語。 甲斐性なしの父親と万引き癖の母親を持つ銀花。 父親が奈良の老舗の醤油蔵を継ぐことになってからのたいへんドラマチックな物語が、まるでテレビの連続ドラマのように展開する。 衝撃的な事件も描かれ、全体に重苦しくつらい話ではあるが、絶望に打ちひしがれることなく常に笑いを忘れない主人公の逞しい性格もあって、どこか爽やかさも感じさせるところが良い。 直木賞候補作だったが受賞は逃した。


ボニン浄土の表紙画像

[導入部]

 五百石船の観音丸は陸奥国気仙沼の船。 天保十一(1840)年、材木や海産物を満載して気仙沼から海路南下していた。 吉之助も水主として乗船していた。 十五の時から小さい船に乗り込んで下働きして10年、一人前の水主になり五百石船の船頭に雇われた。 もうすぐ江戸へ到着と思われた頃、にわかに暴風が吹き始め、観音丸は大嵐の中で揉まれ続け、帆柱も舵も失い、あてもなく吹き流されていった。

[採点] ☆☆☆☆

[寸評]

 前半は江戸時代、小笠原に漂着した者たちの苦難の運命を描き、後半は現代の小笠原で自らのアイデンティティを求める男と少年の2パートを交互に描き、それが絡み合っていく。 そしてやがて前半部も巻き込んだ180年にわたる大きなドラマが見えてくるという巧みな構成だ。 時代を超えて繋がる人々の関係性がよく練られている。 小笠原の歴史も興味深いし、ミステリー味も加えた物語は読み応えがあり面白かった。 最後のエピソードは余計だったが。


網内人の表紙画像

[導入部]

 アイは香港の公営住宅に八歳年下で十五歳の妹シウマンと二人で暮らしていた。 中央図書館に嘱託員として勤務しているが、夕方6時過ぎ、仕事を終え自宅アパートに近づいていくと人だかりができている。 野次馬をかき分けて前に出ると、アパートの入口近くに白い制服を着た少女がうつ伏せで倒れていた。 赤黒い液体が首の周りに水たまりをつくっている。 そして二人の救急隊員がなすすべなく佇んでいた。

[採点] ☆☆☆☆

[寸評]

 妹を自殺に追い込んだ者への姉の復讐を描く本格推理もの。 姉から犯人探しを依頼されるITスキルが半端ない探偵を主体に物語は進むのだが、一方、香港の小さなIT企業で働く上昇志向を持つ男の話も並行して描かれ、両者が終盤に交わっていく構成。 謎解きミステリであり、青春ものの要素もある。 かなりの長尺だが、余分な寄り道はなく話は進むので長さはそれほど感じない。 終盤の意外性はさほどでもないが、読者の期待どおりといったところか。


彼女が天使でなくなる日の表紙画像

[導入部]

 星母島は九州北部に位置する人口三百の島。 「母子岩」なるものがあり、パワースポットとして注目を集めつつある。 もとベビーシッターの千尋はこの島で民宿を運営している。 民宿は託児施設も兼ねている。 恋人の麦生を連れて帰ってきたのは去年のことだった。 千尋は一歳の時、母が死に、遠い親戚の政子さんに引き取られ、島で育った。 中学卒業後、島を出たが、政子さんから民宿を引き継ぐことにしたのだ。

[採点] ☆☆☆★

[寸評]

 民宿兼託児所を舞台に、子育てに悩む母親、母親の言いなりになって不妊で悩む女性、親友に恋人を寝取られた女などのエピソードが綴られていく。 人間関係などいろいろ悩みを抱える人たちが民宿に集まってくる。 個性豊かな登場人物が織りなす人間模様が面白い。 人の悩みや幸せへの希求はいろいろでその辺りの表現は上手い。 無愛想で、ただ子どもが好きなわけではなく子どもに好かれるだけ、という千尋の設定はなんとなく馴染めなかったが。


アンダードッグスの表紙画像

[導入部]

 古葉慶太、32歳。 元農林水産省官僚で現在はネット証券会社勤務。 香港在住のイタリア人、マッシモ・ジョルジアンニ担当班に加わり一年半。 日本やオーストラリアの農産物関連取引で成果を挙げ、マッシモに名前を覚えられた。 マッシモの本業は輸入食品卸しだが、同時に国際的な投資会社を持ち、莫大な個人資産を所有している。 今日、古葉はマッシモから軽井沢の老舗ホテルのスイートに呼び出された。

[採点] ☆☆☆

[寸評]

 証券マンが顧客のイタリア人大富豪に強引に依頼され、香港の銀行地下に隠された国家機密を奪取するという難事に挑む、謀略サスペンスアクション。 序盤の流れはスムーズだが、中盤になってくると世界各国のエージェントが入り乱れ、化かし合いと裏切りの連続となり、話は複雑に絡み合って、読んでいてまるで理解が追いつかない。 素人がプロのスパイを打ち負かすというのはどうかと思うが、終盤のアクションのつるべ打ちはスリル満点で凄かった。


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