◎97年12月



[あらすじ]

 アメリカのカンザス州で聾学校の女生徒と教員の乗ったバスが3人の脱獄囚に乗っ取られる。 彼らは赤レンガの城のような昔の食肉加工場に立て籠もった。 FBIの危機管理チームのリーダーであるアーサー・ポターはさっそく現地に乗り込み、犯人側と交渉に入る。 女生徒たちの恐怖が募る中、ベテラン交渉担当者と凶悪犯人の虚々実々のやりとりが始まる。

[採点] ☆☆☆★

[寸評]

 籠城犯人との交渉を克明に描いた作品です。 克明すぎて結構ドラマティックな筋立てにも関わらずいまいち盛り上がりを欠き、このまま終わってしまうのかと思いきや終盤あっと驚く展開が待っています。 4つ星クラスの出来だと思いますが、アメリカ犯罪ものだけに暴力的で殺人が多く、実に血腥いので★1つ減点。 人質救出は最優先課題ではないと言い切ったFBI捜査官の言葉が最も衝撃的でした。



[あらすじ]

 メキシコ自治大学留学中の香月哲夫は経済学研究への興味を失い、カメラマンになるべくメキシコ南東部を旅していた。 ある夜、酒場の帰りに暴漢に襲われ金と父の形見の時計を奪われるが、通称タランチュラという行商人の老人に助けられる。 香月はタランチュラに頼み込み行商の旅についていくことにする。 民族解放運動の盛んな南東部。 行商に赴いた先住民の村で村人全員が殺されていた。

[採点] ☆☆☆★

[寸評]

 船戸の作品、当たり前だが最後まで面白く読ませてくれる。 しかし「蝦夷地別件」あたりまでの、行間からほとばしり出るようなエネルギーが感じられないのは残念。 語り部となる日本人青年はもとより、肝心の”午後の行商人”にどうも魅力が不足している。 この物語では肝心の彼の長年にわたる執念があまり伝わってこない。 また民族解放運動にしても、もっと深く書き込んでいれば濃密な民族対立のドラマとなったと思います。



[あらすじ]

 昭和22年、ビール業界最大手の日之出麦酒に中途退職した元社員から部落差別をにおわす怪文書が郵送される。 その43年後、日之出の重役の娘と恋仲だった東大出の青年がやはり戸籍の問題に絡み日之出を不採用となり自殺。 その父親も会社に質問状を送りつけ警察の聴取を受けた後自殺する。 これらの者と遠縁にあたる物井清三は、競馬仲間と共に日之出から金を搾り取る算段を始める。

[採点] ☆☆☆☆

[寸評]

 一般の作家なら1冊で終わってしまいそうな物語を、登場人物それぞれに克明な心理描写を加え、執拗なまでの背景描写で描いた作品。 これを単なる冗長な本と読むかどうかは読み手に委ねられているが、その深さにはさすがに少し参りました。 しかし決して読みにくい本ではない。 身代金目当ての誘拐劇という社会派ミステリーの体裁をとりながら、私の本はミステリーではない、と言い切る作者らしく全体により深い人間のドラマを感じ、とにかく最後まで引き付けられました。



[あらすじ]

 中国清朝末期義和団事件の混乱の中で、第11代皇帝光緒帝が寵愛していた側室の珍妃が紫禁城の井戸に投げ込まれて殺されたという。 義和団事件の2年後、外国軍隊の略奪の実態調査に北京を訪れた英国海軍ソールスベリー提督は、日独露3国の貴族と共に<珍妃殺害の真相を探るため、光緒帝の側近だった宦官や袁世凱将軍、珍妃の姉瑾妃らの証言を得ていく。

[採点] ☆☆☆★

[寸評]

 
「蒼穹の昴」の番外編とも言うべき物語。 関係者の証言がことごとく食い違っているあたり黒沢明の映画「羅生門」状態。 それはそれで面白いのだが、この話だけで1冊はちょっと苦しい。 本編との重複になっても時代背景や状況、珍妃の人となりをもう少し詳しく描いても良かったのでは。 作品の性質からいって本編の壮大さとは比べようもないが、浅田次郎らしい”泣かせ”が好調なミステリー小品。



[あらすじ]

 女子高生が通り魔に刺し殺されるという事件が起こる。 その直後から、同級生の野間直子は彼女の魂が乗り移ったような言動を始める。 そのころイラストレイターをしている直子の父親は、「ガラスの麒麟」という不思議な童話の絵づくりを出版者から依頼されていたが、その作者が殺された少女であることを知る。 生徒の相談相手でもある養護教諭の神野先生は鋭い観察力で真相に迫る。

[採点] ☆☆☆★

[寸評]

 関連の無いようなエピソードや複雑に絡んだ糸が最後に見事な結末を迎えるミステリー。 題名同様透明感のある作品で、女子高生という不安定で危うい存在感が上手く表現されている。 6つの短編からなり、それぞれが独立していながらしっかり計算され繋がっている。 素直で嫌みのない作品だが、残念ながら私はそれほど魅力を感じなかった。 やっぱり女子高生の世界に感情移入するのは無理だったようです。


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