◎07年8月


首無の如き祟るものの表紙画像

[あらすじ]

 第二次大戦の渦中、奥多摩にある媛首村(ひめかみむら)。 養蚕と炭焼が主産業のこの地を代々治めてきたのは筆頭地主の秘守家。 秘守を名乗る家は村内に三軒で、いわゆる本家筋が一守家、これに二守家、三守家と続く。 その一守家には跡取りとなるべき立場の長寿郎と、女ゆえ彼と何かにつけ差をつけられる妃女子という一卵性双生児の兄妹がいた。

[採点] ☆☆☆★

[寸評]

 横溝正史を想起させる、田舎の旧家を舞台にした禍々しい連続殺人。 子供の成長に合わせた10年ごとの夜参りとか花嫁を選ぶ儀式といったいかにもの舞台、井戸に逆立ちの首無死体などが用意され、そのおどろおどろしい雰囲気は見事。 とりわけ中盤の婚舎の集いから跡継ぎ騒動に至る展開は滅法面白い。 そして物語の最後になってようやく名探偵が登場するのだが、二重三重の本格謎解きは読んでいて疲れました。


映画篇の表紙画像

[あらすじ]

 小説家の私のデビュー作の映画化が決まり、撮影現場を訪ねた。 そこでヘアメイク・アーティストとして働いている中学時代の同級生の永花と出会う。 自然と話は共通の友人、龍一のことに。 私と龍一は、通っていた民族学校の小学3年のとき『大脱走』という映画の話題で初めて言葉を交わす。 その後サッカーの試合で大喧嘩をした後、友だちになった。

[採点] ☆☆☆☆

[寸評]

 「映画」を中心の題材に取った中短編5編。 各編のタイトルが「太陽がいっぱい」とか「ドラゴン怒りの鉄拳」とか見たことのある懐かしい映画たちなのがまずうれしい。 それぞれが「ローマに休日」の上映会を中心に微妙につながっている構成。 「ペイルライダー」などまるで劇画でかっこ良すぎるし、ラストの中編はあまりにいい人ばかりが出てくるあまりにいいお話だが、素直に楽しめるし思わずジーンときてしまうほどです。


夜想の表紙画像

[あらすじ]

 雪藤直義は交通事故で妻子を亡くした。 渋滞にトラックが突っ込み、妻子は炎上する車の中に取り残されたのだ。 空虚な毎日を送る彼は、ある日定期入れを落としたところ、若い女性が拾ってくれた。 ところが彼女は、「あまりにかわいそうなので」と言って泣いていた。 後日、彼女を探し当て尋ねると、彼女は物に残った思いを読み取ることができる、と言う。

[採点] ☆☆☆☆

[寸評]

 悲しみのどん底にあった男が不思議な能力を持った女子大生の言葉に救われた思いで、彼女をバックアップすることに。 自然派生的に組織は大きくなり、彼女の美貌もあって、社会的な話題にもなり、宗教団体へと発展していく。 宗教を食いものにするような輩も登場するが、話は俗な方向にはあまり深く進まず、そこに関わる人々の救済に重点が置かれているのが好ましい。 深い悲しみの世界から光が見えたラストがいい。


正義のミカタの表紙画像

[あらすじ]

 蓮見亮太は飛鳥大学の入学式を迎えた。 三流大学ではあるが、亮太は必死に勉強し合格した。 高校時代、クラス中からいじめられていた彼は、同級生の誰も行かないここを選んで努力したのだ。 ところが、よく殴られ金も取られた畠田がいた。 そしてやっぱり殴られていたところに、新入生の桐生友一が通りかかり、眼にも止まらぬパンチを畠田に見舞う。

[採点] ☆☆☆★

[寸評]

 クラス中からいじめを受けていた男子が新天地の大学で友人もでき、サークルにも入り、女の子ともデートし、という設定は甘いが、その状況の変わりように主人公が感激する様がストレートに伝わってきて楽しくなる。 正義の味方研究部なるサークルも少々安易な設定だが、部員のキャラクタ造形がとてもいい。 しかし後半、企画サークルに潜入捜査する話になってからそれまでの昂揚した物語が一挙に停滞した感じで残念。


大鴉の啼く冬の表紙画像

[あらすじ]

 イギリス最北端のシェトランド島。 元日の未明、高校生のキャサリンとサリーは肝試しのつもりで少し頭が弱いという一人暮らしの老人マグナスの家を訪れ、マグナスはキャサリンに魅了される。 そして1月5日。 近所に住む女性が自転車で娘を学校へ送った帰途、マグナスの家の近くで大鴉が集まっているところを見て近づきキャサリンの死体を発見する。

[採点] ☆☆☆★

[寸評]

 北極圏まであと一歩というイギリス最北端の島で起こる殺人事件。 凍てついた最果ての地の狭い町の中という舞台設定が良く描かれており、この物語の雰囲気に絶妙にマッチしている。 犯人に最も近い老人マグナスの描き方は珍しくないし、キャサリンとサリーの関係も想定内という感じだが、全体に丁寧な話の運びで退屈させられることはない。 サスペンスに乏しく、娯楽性重視の採点では4つ星には届きませんが。


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