◎15年3月


インドクリスタルの表紙画像

[あらすじ]

 藤岡は山峡ドルジェという水晶デバイスメーカーの社長。 惑星探査機用の電波送受信機のための特別に精度の高い水晶振動子開発のため、インドで純度の高い水晶の原石を探していた。 クントゥーニという東部の小さな町に行き着き、そこの貴石加工販売業者と交渉。 その席で見事な水晶加工品を見て翌日鉱山を訪ねることに。 その夜、藤岡の部屋に客をもてなすための少女が送り込まれてくる。

[採点] ☆☆☆☆

[寸評]

 久しぶりの作者だが、10年以上前の作風に戻ったような読み応え満点の力作。 人種、文化、風俗、考え方のまるで異なる土地で24時間戦い続ける日本人ビジネスマンの奮闘、混乱に加え、高い知的能力と知らず人を操るスーパーナチュラルな女性との交流が約15年にわたって描かれる。 これにインドの政治・社会状況やいまだ残る階級意識などてんこ盛りの内容。 全編高いテンションで突き進む、気を抜くところがないのはちょっとつらい作品でもある。


機龍警察 火宅の表紙画像

[あらすじ]

 警視庁の特捜部に属する由起谷警部補は、かつて高輪署で世話になった元上司の高木警視を自宅に見舞う。 高木は本庁の管理官に着任した矢先、膵臓癌で倒れ自宅療養している。 高輪署当時、高木はすでに四十に近く、万年巡査部長と呼ばれていた。 叩き上げのベテランで出世の機会を逸し続けていたが、由起谷の着任から半年ほどで警部補に昇進し、その後はとんとん拍子に出世を続けた。

[採点] ☆☆☆☆

[寸評]

 最新型特殊装備”龍機兵”を擁する警視庁の新設部署、特捜部を舞台とした短編8編の作品集。 ”SF”+”警察小説”の体裁をとっているが、おおむねどの作品も龍機兵の活躍の場面は少なく、純粋な警察小説といえる。 一貫して硬質で冷たい書きぶりの作品群で、いずれも切れ味の鋭さが感じられる。 元上司の秘密に迫る表題作、龍機兵の活躍が短くかつ鋭く描かれる「焼相」、官僚としての仕事ぶりが詳しい「勤行」など印象に残るものが多い。


凍える墓の表紙画像

[あらすじ]

 1829年のアイスランド。 2人の男に対する殺人罪で男1人と女2人が起訴され、斬首刑の判決が下された。 犯人のうち、アグネスは処刑の日までコルンサワ農場で過ごすこととされ、魂の監督者として教誨師がつけられることとなる。 アグネスは当初の教誨師の交代を求め、若いトルヴァデュル牧師補を指名するが、トルヴァデュルは彼女と面識はなく困惑する。 農場を営む行政官一家も彼女を恐れる。

[採点] ☆☆☆☆

[寸評]

 実在したアイスランド最後の女性死刑囚を描いたドラマ。 アグネスの他、牧師補、農場主の妻などが交互に語る形式で物語は進む。 当初は教誨師にも牧場の家族にも心を閉ざしていた彼女の聡明な姿が徐々に浮き彫りになるとともに、被害者となった男への熱情が語られる。 今でも現地では、殺人を煽動した冷酷な魔女とされる女性の、事実と作者の推測を織り交ぜた物語は、アイスランドの厳しい自然、人々の暮らしぶりとともに大変リアルだ。


探偵の探偵の表紙画像

[あらすじ]

 46歳の須磨康臣は、調査会社を経営すると共に、「スマPIスクール」という探偵養成所を併設している。 6期生となる入学希望者の説明会には50名以上の人が来ていたが、須磨の目はひとりの痩せた女に釘付けになった。 未成年と思われるのにすわった目つきと落ち着きぶりが、ほかの参加者とはまるで違う。 個別面接で、その紗崎玲奈は、知識は得たいが、探偵にはなりたくないと言い放つ。

[採点] ☆☆☆

[寸評]

 対探偵の探偵という設定はユニークで、全編一気読みの疾走感が感じられるし、少々グロいものの、読者へのサービス精神旺盛な娯楽作だ。 内容的には、敵が明白なのにそこを断とうとはせず、何度も簡単に騙されて窮地に陥ったりと、首を傾げたくなるようなところも多いが、あくまでエンタメ小説なので、単純にハラハラドキドキすれば良いということかな。 個人的には、若い女性がギリギリ痛めつけられる場面が多いのは趣味でないですが。


猟犬の表紙画像

[あらすじ]

 ヴィリアム・ヴィスティングはノルウェーのラルヴィク警察に勤めて31年の警部。 大手のタブロイド紙の記者をしている娘のリーネから、明日の朝刊に17年前のセシリア事件について、ヴィスティングの顔写真をでかでかと載せた記事が出るとの知らせが。 若い女性の誘拐殺害事件で、彼は当時捜査の陣頭指揮を執っていたが、犯人特定の決め手となったDNA鑑定は警察の捏造だったという記事だ。

[採点] ☆☆☆★

[寸評]

 珍しいノルウェー作家の作品で、北欧のミステリ賞「ガラスの鍵」賞のほか、多くの賞を得ている。 弁護士の再審申請を受けて即時停職とされた警部が、身の潔白を晴らすため事件の真相を探っていく様子が丹念に描かれていく。 派手なアクションなどはないが、設定も展開もよく練られており、話に適度な広がりもある、なかなか面白い物語だと思う。 執拗に真相を追うのは父親の警部よりも娘のほうで、書名の”猟犬”に相応しいようです。


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