[寸評]
刑事ハリー・ボッシュシリーズの第8作だが、単発で読んでも十分面白い。
20年前の骨の出現からラストまで読者を掴んで離さない。
前進と後退を繰り返し、捜査が二転三転していく様子はミステリーとして第一級の作品と言える。
正義を貫く主人公の姿勢が実に潔い。
一方、シリーズものとして深まったボッシュの人間関係描写に加え、30半ばにして警察に入った新米警官ジュリアとの交流もまた謎を含んで終わり、心に残る作品になった。
[寸評]
多彩な作風で楽しませてくれる作者の「ボトムズ」系列のノスタルジー色溢れる作品。
物語のメインは謎解きではなく、家族の絆、少年と友人たちとの交流のドラマ部分にある。
とりわけ少年の母親、姉、黒人の女中といった女性たちの、生き生きとし毅然とした姿勢がいい。
また、姉の姿はこの年代の娘の危うさを的確に表現している。
ある面で希望に満ち、ある面でとてつもなく恐ろしい大人の世界に踏み込んでいく少年の成長のドラマ。
[寸評]
この物語は、ブラックなユーモアに包まれた暗黒小説が主のトンプスンの他の作品とは趣を少々異にしている。
主人公はごくごく普通の青年。
出来心とも言えるようなきっかけで、後戻りのできない暗い道に踏み込んでしまった彼の悲劇が、ユーモアを交えず、辛辣に描かれる。
また、父親との関係、女との関係が実にやるせない。
物語は意外な展開と真相を適度に配しており一気に読ませるが、暗く、救いのない話だ。
[寸評]
受刑者の家族の置かれた社会的立場という重いテーマを扱った小説だが、物語としてこの弟の苦難を読み続けるのは少々つらい。
いくつかのエピソードが用意されているが、彼を待ち受ける運命は十分予測が付いてしまうものだけに、後追いでそれを確認するようになってしまう。
もともと上手に結論付けできるようなテーマではなく、物語のまとめ方は作者も悩んだろうが、それでもラストシーンではこみ上げてくるものがあるのはさすが。
[寸評]
逢坂剛の原点とも言えるスペインものの短編5編で、昭和62年に出版された文庫をもとに加筆修正されたもの。
どの作品も地中海の匂い、動乱の中を生きる人間たちの描写が実に生き生きとしており、また小道具の使い方も上手い。
恋人を救うため治安警備隊のために動く日本人を描く「カディスからの脱出」も面白いが、執念の塊のような殺し屋が出てくるサスペンスたっぷりでかつ洒落たラストの「カディスへの密使」が抜群に良い。
[あらすじ]
ハリウッドの丘陵地帯で人間の骨が発見される。
犬がくわえてきたもので、捜索の結果、頭蓋骨なども見つかり、鑑定で20年ばかり前の少年の遺体と判明。
死因は頭部の殴打。
ハリウッド署の刑事ボッシュが捜査にあたり、やがて昔幼い少年に性的いたずらをした男が近隣に住んでいることを突き止める。
男は頑強に否定するが話がテレビ局に漏れてしまう。
[採点] ☆☆☆☆
[あらすじ]
1950年代の終わり、テキサス州の田舎町デューモント。
13才のスタンリー・ジュニアの一家はドライブ・イン・シアターを経営していた。
夏休みのある日、飼い犬のナブと裏の森で遊んでいて、土に埋もれた金属製の箱を見つける。
そのあたりには焼け落ちた屋敷跡があった。
箱の中からは恋文の束。
手紙の主を調べるうちに過去の殺人事件が浮かんでくる。
[採点] ☆☆☆☆
[あらすじ]
ダスティはホテルの夜勤のベルボーイ。
二人暮らしの父親は教師の職を追われて以来、生きる希望を無くしたように家で過ごしている。
大学に通っていたダスティは金になる夜勤の仕事に就いた。
ある日の真夜中、一人の女が宿泊してきた。
美人を超えた"すべての女"と言っていいような女性。
そしてある夜の午前3時、彼女から便箋を求める電話がフロントにかかる。
[採点] ☆☆☆★
[あらすじ]
武島剛志と直貴の兄弟は両親を亡くし二人暮らし。
高3の弟を大学に進ませるため剛志は肉体労働に励んでいたが、腰を痛め、以前の仕事で知っていた家に盗みに入る。
しかし一人暮らしの老婦人に気付かれ思わず刺し殺してしまう。
逃走するもすぐに捕まり強盗殺人罪で15年の刑に。
その時から弟の直貴は社会の冷たい視線にさらされ続けることになる。
[採点] ☆☆☆★
[あらすじ]
1939年4月、スペイン内戦が終わった翌日のこと。
閉鎖されていた日本帝国公使館の再開に向け、外務省書記生の宮川は荒れ果てた建物に入る。
地下には黒こげになった人間の死体が。
また手提げ金庫からは田中光一が宮川あてに書いた手記が出てきた。
田中は留学生で公使館の雑事を手伝っていたが、3年前の公使館閉鎖後もマドリードに残っていた。
[採点] ☆☆☆☆
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