◎15年1月


低地の表紙画像

[あらすじ]

 カルカッタの郊外の家に育ったスパシュとウダヤンの兄弟。 2人はどちらも市内の有名大学に進んだ。 スパシュは化学工業で、ウダヤンは物理の専攻で別々の大学へ。 1960年代後半、インドでは国家を敵とした過激な革命運動が始まっていた。 学業を終えた2人とも学歴に見合う仕事がないという境遇になり、スパシュはアメリカの大学の博士課程を選択する一方、ウダヤンは革命運動に身を投じていく。

[採点] ☆☆☆☆

[寸評]

 アメリカとインドを舞台とした、半世紀にわたる家族の物語。 静かな筆致で淡々と描かれる作品だが、小説を読むことの愉悦を感じさせるリズム、文体、描写に酔わされる。 そのため動きの少ない場面でも退屈さを感じさせられることはない。 もともと話自体はそのリズムとは裏腹に非常に波乱に富んだもので、激情とも言えるくらいの強さ、激しさに満ちた物語だ。 500ページ近い長い作品だが、最後に近付くにつれ読み終えたくない気持ちが高まっていく。


ふたつの星とタイムマシンの表紙画像

[あらすじ]

 わたしは平沼先生の物理学研究室に出入りしている。 平沼先生は34歳で大学教授になって3年、実績があり見た目も良く、人気がある。 先生の机の横に電話ボックスぐらいの大きさの円筒があり、先生に問うと、タイムマシンだという答えが。 先生に促されて円筒の中に入り、5年前の日付をキーボードに打ち込む。 押したと同時に正面の大きなモニターに5年前のニュース番組が映し出された。

[採点] ☆☆☆

[寸評]

 タイムマシンや、瞬間移動などの超能力、人型ロボットなど、近未来の日本を舞台とした短編7編のファンタジー。 夢のような機械や道具、能力を使って果たして人は幸せになれるのか、というようなことが軽いエピソードで物語られる。 題材の興味深さ、面白さの割に、どれも30ページ程度の長さのため、広がりも小さく、変化の少ない展開に終わっているのはなんだか物足りない。 より現実的な描き方でしたが、もう少し夢があっても良かったかな。


ありふれた祈りの表紙画像

[あらすじ]

 1961年、13歳のフランクは牧師の父と母、吃音症のある2歳下の弟ジェイクとミネソタ州のニューブレーメンで暮らしていた。 その夏のすべての死は一人の子どもの死で始まった。 フランクと同い年のボビー・コールが列車にはねられたのだ。 教会の雑用係で父の戦友だったガスは少年の死をめぐって酔って喧嘩騒ぎを起こし、身柄の引き受けに警察署に行く父にフランクとジェイクはついて行った。

[採点] ☆☆☆☆

[寸評]

 家族の運命を大きく変えたひと夏を少年が語るミステリドラマ。 多感な時期の少年に降りかかるさまざまな事件や障害が郷愁たっぷりに描かれている。 序盤は比較的緩やかに流れ、中盤から急激に物語は展開し、ラストまで一気に読ませる。 登場人物は多いがそれぞれ描き込まれている印象で、しっかりした人間ドラマになっている。 終盤の真相に至る二転三転は派手さも新味もないがそれなりに読ませ、エピローグは味わい深さを感じさせた。


あなたの本当の人生はの表紙画像

[あらすじ]

 國崎真実は新人賞は獲ったもののその後も没原稿がたまっている新人作家。 担当編集者の鏡味にジュニア小説の女王と呼ばれる森和木ホリーの内弟子になるよう持ちかけられる。 森和木ホリーの大きな屋敷には、長年仕えている宇城という秘書のほか、使用人が何人もいた。 ホリー自身は脳梗塞もあり、人気だった錦船シリーズも途絶えて久しいが、その著作はいまだアニメ化などの動きがあった。

[採点] ☆☆☆

[寸評]

 ベストセラー作家とその秘書、弟子になる新人作家、クセのある編集者の4人の交互の語りで構成されるファンタジーな小説。 初対面で主人公が森和木ホリーから「おいで、チャーチル(老作家の人気シリーズに登場する猫)」と呼びかけられるというメルヘンな小説で、私はその時点でちょっとついていけないという感じに。 ホンワカした現実感のない物語だが、「あなたの本当の人生は」という問いかけが今ひとつ効いていないように思いました。


禁忌の表紙画像

[あらすじ]

 エッシュブルク家はミュンヘン近くの村の湖畔に大邸宅を構えていたが、1920年代のインフレのあおりを受け財産の大半を失った。 ゼバスティアンは使用人もいない落ちぶれた邸宅で産声をあげた。 彼は文字に色を感じる共感覚の持ち主だった。 十歳のとき、奨学金をもらって、スイスの標高二千メートルの高地にある修道院の寄宿学校に入った。 ある日、母から父が病気との電話が入る。

[採点] ☆☆☆★

[寸評]

 前半は主人公の生い立ちと写真家として成功を収める様子が描かれ、後半は前触れもなく殺人の容疑者として逮捕されてからの裁判劇が主体。 最後、決着はつけられても細かな謎は残ったまま。 本国ドイツでも「二度読んでも理解できなかった」と首を傾げる書評家もいたというから、すっきりした謎解き、結末を求める向きには困った一作だ。 ”罪とはなにか”を浮き彫りにする多分に観念的な作品で、傑作と評する向きがあることは理解できる。


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