◎01年9月



[あらすじ]

 調査事務所を営む式部は、九州北西部にある古名を"夜叉島"という島に降り立つ。 仕事上の繋がりのあったノンフィクション作家の葛木志保が失踪し、か細い手がかりからこの島に辿り着いた。 案の定、本土側の船着場の係は葛木が乗船したのを見ていた。 ところが島の人間は葛木を見たことはないと言う。 やがて台風の夜、神社で女の惨殺死体が発見される。

[採点] ☆☆☆★

[寸評]

 外界から隔絶された邪教の島を舞台とした本格ミステリー。 禍々しくおどろおどろしい雰囲気がよく出ていて特に前半は非常に面白い。 一方、中盤からは邪教の島の解説めいたやり取りや式部の行きつ戻りつの調査の模様が延々と続き、やや冗長気味。 家督争いなどの俗な話も出てせっかくの雰囲気も崩れてしまった。 終盤は意表をつく展開、神秘的な場面や凄惨な事件が用意され再び盛り返すが、最後は息切れした感じ。



[あらすじ]

 バードン・レインは合法的な銃器販売会社の幹部だが、実際は銃の密売を本業としている。 社長から黒人のストリートギャングと組んでニューヨークでブツの引き渡しと代金受け取りを命じられる。 Uストリ−トという黒人ギャング団と一瞬即発の雰囲気に包まれながら、バートンらは何かうさんくさい取引に向かう。 そこには案の定、大きな罠が待ち受けていた。

[採点] ☆☆☆★

[寸評]

 装丁の雰囲気から犯罪ノワールものを予想していたが、中身、特に後半は凄まじい銃撃戦の連続だった。 中盤以降は息もつかせぬ場面が続き、逆転また逆転の展開や非情な男でありながら繊細な面を持つ主人公の人物造形、ジンクスという黒人ギャングとの友情など十分に楽しめる内容ではあった。 しかしいったい何人殺されたか数えることもできないほど、血しぶきが舞い、肉片が飛び交う凄惨な場面の連続には辟易しました。



[あらすじ]

 1960年代の東北地方。 中学2年の神山久志は野球部員だが、へまなプレーばかりで、外野の後ろで球拾いが定位置だ。 夜ラジオでいつものように三沢基地の米軍放送を聴いていてものすごい衝撃に襲われる。 それはビートルズの「プリーズ・プリーズ・ミー」という曲だった。 まるで自分への応援歌のように聞こえた彼は翌日の学校で勇気を出してその曲を歌った。

[採点] ☆☆☆☆

[寸評]

 中学生を主人公に据えた青春成長小説。 前半の野球部のごたごたは、身勝手な教師と理不尽にもただ耐えるのみの生徒という前時代的な図式に反発を感じるような展開。 しかし少年がある目的を持って夏休みに十和田湖へ一人キャンプに行くところからは、素直に感動できる物語になっている。 この本を読めば、誰でも笑顔で何かがんばってみようという気にさせてくれる、何か勇気が湧いてくる、そんな物語だ。 爽やかなエンディングもいい。



[あらすじ]

 19才のアキは腕力にものを言わせて渋谷のストリートギャングを束ね"雅"というグループを結成していた。 相棒のカオルが考えたファイトパーティーという一種の興業でかなりの収入もある。 一方、30代の柿沢と桃井は年長の折田と3人のチームで、やくざや政治家の裏金をぶんどっていた。 ある夜、折田が非合法カジノから奪った金を"雅"の若者に持ち去られてしまう。

[採点] ☆☆☆☆

[寸評]

 すぐにキレるガキ共を束ねるクールで喧嘩に強い小僧の話と馬鹿にしていたら、めっぽう面白かった。 強奪した金を奪われた桃井らに、つい持ち逃げして泥沼にはまった"雅"、カジノを経営していたやくざと"雅"につけ入ろうとする別のやくざ。 黒い金を巡って4つ巴の争奪戦が展開される。 小気味いいテンポで思いがけぬ終局に向かって話は突き進んでいく。 無駄のない運びで、拳のファイトに派手な銃撃戦とアクションもたっぷり楽しめる。



[あらすじ]

 ジャック・ウェイドはカリフォルニア火災生命の査定担当。 顧客のヴェイル邸の火災現場。 多額の保険がかけられた屋敷の主人ニッキーの妻パミラが焼死。 ニッキーは妻と別居し、子供を連れて母親の家にいた。 郡保安局の火災調査官はパミラが泥酔し、寝煙草が出火原因と断定。 しかし現場に不審な点を感じたジャックは詳しく調べ始める。

[採点] ☆☆☆☆

[寸評]

 スリル、アクションからお色気まで、娯楽作の要素を余すところなく持ち、複雑な人物関係も手際よく整理された面白本。 作者は保険調査員の職歴もあるというが、火災原因の究明、保険契約や詐欺についての蘊蓄も話の流れを止めない程度に興味深く描かれる。 旧ソ連のスパイからロシア人マフィア、ベトナム人裏社会のボス、FBIまで登場人物も多彩。 全編カリフォルニアの陽光を感じさせながら楽しませてくれる。


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