◎04年7月



[あらすじ]

 日曜日、介護サービス業の潟xイリーフでは、社長、副社長、専務の3人と秘書らが出社していた。 昼食後昼寝をしていたはずの社長が撲殺されているのを窓拭き業者が発見。 12階の社長室は密室状態で廊下の監視カメラにも何も映っていない。 逮捕されたのは社長室に中から通じる部屋で昼寝をしていた専務。 弁護士は防犯のプロに密室の解明を依頼する。

[採点] ☆☆☆

[寸評]

 物語は大きく2部に分かれ、1部では専務の弁護をする女弁護士と防犯コンサルタントが密室の謎に挑戦する様子が描かれる。 あの手この手で密室を解明し、真犯人を特定しようという2人のアプローチが面白い。 ところが、続く2部に入ると一転して犯人の主体的な語りになり、なにか1部の2人の奮闘ぶりを楽しんだのが空しくなる。 密室の謎については感心はするけれども面白味はないし、殺人の必然性も理解できなかった。



[あらすじ]

 街道沿いで牢人が、通りかかった巡礼の父娘のうち年老いた父親を突然斬り殺す。 居合わせた藩士がその牢人、掛十之進に理由を訪ねると、この者は腹ふり党で、この地に恐るべき災厄をもたらすのを事前に防止したと言う。 邪教団体腹ふり党対策のためと、掛はうまく藩に仕官する。 家老の内藤帯刀はこの問題を上手く操り次席家老の追い落としを図る。

[採点] ☆☆☆☆

[寸評]

 一応江戸時代の小藩が舞台なので、時代劇、時代小説ということになるのだろうが、この作品には特にジャンル分けは無意味。 登場人物らの話しぶりも、現代調であり、また時代劇風でもあり、それは町田調ともいうべき不思議な語りのリズムをもって、どんどん読み手の中に乱入してくる。 そのリズム感の素晴らしさと共に、組織や社会規範ばかりか自然界の法則まですべてを覆す展開の飛躍ぶりに、ちょっと感動すらしてしまいました。



[あらすじ]

 尾張の宮大工だった岡部又右衛門は、1560年、今川氏との戦いにきた織田信長に認められ、織田の大工棟梁となる。 それから15年、信長は力で天下を切り開き、又右衛門は棟梁として、野戦用の砦や宿舎から橋、城、船まで様々なものを作り続けた。 そして信長は安土の地に七重の壮大な天守を建てるよう又右衛門に命ずる。 それも南蛮風を求めた。

[採点] ☆☆☆☆

[寸評]

 松本清張賞受賞作。 と言っても推理ものではなく、安土城の建立から焼失までを、番匠の岡部親子を中心に描く。 近年その設計図が見つかった特異な城の姿が鮮やかに浮かぶ。 戦国の時代背景、工事にかり出された民衆の運命、天下を取る男はかくやと思わせる信長の冷酷さも的確に表現されている。 親子・職人間の確執、建築コンペ、建設阻止を企む敵方間者の暗躍等々、盛り沢山な内容がスピーディに展開し、小気味良い。



[あらすじ]

 ルーブル美術館の館長ソニエールは男に撃たれる。 遙か先代から守り続けてきた秘密を共有する3人の仲間が殺されたことを知り、自分が死ねば真実が永遠に失われてしまうことから、最後の力で手がかりを残す。 ソニエールの孫で警察の暗号解読官ヌヴーは、祖父の殺害容疑をかけられたアメリカの大学教授ラングドンと共に祖父の残した謎の解明に挑む。

[採点] ☆☆☆★

[寸評]

 40か国以上で刊行され、750万部を超える大ベストセラーに対する評価としてはちょっと厳しいかな。 確かに上巻はとても面白かった。 絵画にまつわる蘊蓄など非常に興味深いし、畳み掛けるような展開も心地良い。 暗号解読もこのあたりまでは面白かったが、下巻になるとミステリーとしてはすっきりしない展開で、意外性にも欠け、人物の描き方も物足りないなど、あらが目立ち平凡。 キリスト教信者ならもっとのめり込めたでしょうが。



[あらすじ]

 弁護士のアンディは、地区の元主席検事だった父から死刑囚のミラーという男についての再審請求を頼まれる。 ミラーは7年前、若い女性を殺害した容疑で逮捕され死刑を宣告された。 当時、証拠はことごとくミラーを指していたが、彼自身は泥酔していてまったく覚えがない。 父は裁判の始まる前に急死したが、巨額の預金と1枚の不可解な写真が残された。

[採点] ☆☆☆☆

[寸評]

 全編軽妙なタッチで拾いもののミステリーの佳作。 序盤はユーモアのセンスや主人公のへらず口に若干のずれや違和感を感じたが、やがてその語り口にも慣れ、適度なテンポに揺られながら最後まで楽しめた。 登場人物は多いが分かりやすく整理されており、謎解きにしろ、主人公のロマンスにしろ、犯罪にしろ、娯楽作としての要素がほど良く、かつマイルドにブレンドされている。 邦題の"奇策"はちょっとないですがね。


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