◎97年8月



[あらすじ]

 建設工事で暴力団を使って暴力団を抑える事前工作(サバキ)の仲介をしている建設コンサルタントの二宮は、 富田林市の産廃業者から処分場建設のネックとなっている地元水利組合長の弱みを探るよう依頼される。 調査中やくざに襲われ自らのサバキも一方的に中途解約を通告された二宮は、サバキの残金を要求するやくざの桑原につきまとわれながら利権絡みの陰謀に近付いていく。

[採点] ☆☆☆★

[寸評]

 お互いを疫病神と呼ぶ二宮と桑原のコンビが面白い。 大阪弁での掛け合いもテンポよく、危なくなればさっさと相手をおいて逃げるところや、徹底的に金の亡者ばかりが登場するのも小気味よい。 この作者は初期の作品以降敬遠していたが、直木賞候補になったということで久しぶりに読んでみました。 特に後に何か残るような作品ではなく、二宮がやくざ相手に頑張りすぎのところは気になるが、気楽に楽しめました。



[あらすじ]

 イギリスのバースに住むシャーリー・アンは町のミステリー愛好会"猟犬クラブ"に入会する。 その頃町の郵便博物館から世界最古の切手の盗難事件が起こるが、続いて開かれたクラブの例会で会員が持参した本からその切手が滑り落ちる。 その本人は身に覚えがないというが、果たして犯人は。続いて起こる殺人事件。 地元警察の殺人担当警視ダイアモンドが推理を開始する。

[採点] ☆☆☆★

[寸評]

 前作
「バースへの帰還」が素晴らしかったダイヤモンド警視シリーズの最新刊。 ちょっと期待しすぎましたか。 序盤のミステリー愛好会の様子は本好きにはたまらない。 切手の盗難から発見、密室殺人の発生まですこぶる快調。 しかし中盤が平板な印象でテンポが悪い。 終盤盛り返してきたが事件の解決は唐突な感じで、最後も余韻がなく終わってしまった。 ただ、相変わらず警視が生き生きと描かれ、脇役陣とのやりとりも面白い。



[あらすじ]

 移植医を父に持つ夕霞は先天性の病気でほとんどの臓器に欠陥があった。 そのため生後まもなくから度重なる移植手術を父の執刀で受けてきた。 しかし移植臓器は人間の物ではなく、免疫の問題を回避するために自らの遺伝子を使って産み出された豚の臓器であった。 父の死後、夕霞は手術の記録を調べていく。 表題作のほか「吸血狩り」「本」の2編を収録。

[採点] ☆☆☆

[寸評]

 昨年、日本ホラー小説大賞短編賞を
「玩具修理者」で受賞した作者の2作目。 表題作はショッキングな話だが、途中で結末が何となく想像されてしまい作者が狙ったであろう衝撃的な幕切れは不発。 2編目はどこかで読んだことのあるような話。 面白かったのは3編目の「本」。 読みづらい序盤を過ぎると一気にホラー色が濃くなり、終盤は緊迫感も盛り上がる。 こういう不思議な話の場合、最後が説明口調になるとしらけるが何とか回避している。



[あらすじ]

 カメラマンの深町はエベレスト登山隊に加わり2人の死者を出して失敗に終わった後もカトマンドゥに居残っていた。 ある日、登山用品店で古いカメラを見つけて驚愕する。 1924年にマロリーがエベレスト登山の折に持参しそのまま本人と共に所在不明となった物ではないか。 そしてカメラをもともと持ち込んだのは日本人らしい。 調査の中で、深町は思いがけない登山家に出会う。

[採点] ☆☆☆☆

[寸評]

 作者が登場人物の姿を借りて、山に対する様々な思い、憧れ、畏怖、喜び、悲しみなどを持てる知識を総動員して表現した力作。 その力の入り具合が読む側にあまりにストレートに伝わってくるので、気楽に楽しもうというような身にはちとつらい。 マロリーのカメラというミステリーとして非常に面白い設定を必要以上に膨らませないのも、作者はエンタテインメントを書いているわけではないので良く分かる。 とりつかれたように極寒の登山に挑む人間たちの迫力に読む側が押されてしまい疲れました。



[あらすじ]

 1945年、中国は広東の憲兵教習隊で終戦を迎えた守田軍曹は、武装解除の日に戦犯追及を逃れるため密かに離隊する。 前任地の香港でスパイ摘発にあたり4人の死に関わっていたのだ。 一般邦人収容所に潜り込み引き揚げ船で日本に戻った彼は、つかの間妻子と暮らすが、戦犯捜索の日本警察に追われ再び逃亡の日々を送ることになる。

[採点] ☆☆☆☆

[寸評]

 終戦後味方からも追われ必死に逃げまどう元憲兵を主人公に、戦争責任にも言及した力作長編。 長尺をラストまで緩むことなくぐいぐい引っ張り、サスペンス小説としても非常に良く書けていて読み応え十分。 主人公の罪、日本の罪もしっかり描いている点も好感が持て、相変わらず作者のまじめな作風により夫婦、親子の情愛描写も素直に感動させられる。 しかし読み終わって作者も戦後生まれとわかり驚きました。


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▲ 「玩具修理者」
 どんな複雑なおもちゃも完璧に直してしまう国籍、年齢、性別不詳の玩具修理者。 過失により弟が死んでしまった少女は、死体を玩具修理者のもとに持ち込む。 相当に気持ち悪い話だが、良くできたホラー。 もう1編のタイムトラベルものの「酔歩する男」も面白い。