[寸評]
突然英雄に祭り上げられ国中を凱旋して回る若い兵士の目を通して、偉大なアメリカを希求し続ける国・国民の姿が描かれる。 戦地から戻った分隊の兵士たちと、彼らを称賛して止まないほら吹きとはったり屋の誇り高く臆病なタカ派の人々との対比が見事。 つかの間の帰郷の場面を除き全編スタジアムでの数時間だけの物語だが、冗長な感じは全くない。 また後半には熱狂の渦中でのビリーの一瞬の恋が熱い旋風のように描かれ青春小説としても良い。
[寸評]
宮部みゆきの江戸怪奇譚連作の第四編。 今回は100~180ページほどの四話が収められている。 面白さでは定評のあるシリーズだが、今回も流石の上手さ。 特に二話と三話。 第二話は“ひだる神”という食いしん坊の神様が江戸の仕出し料理屋にとりつく話だが、ユーモラスで心温まる物語に仕立てられている。 一方、第三話“三鬼”は、語り手の武士の流転の境遇、赴任した村の謎めいた雰囲気と奇怪な出来事によりまさに一気読みの面白さだ。
[寸評]
元刑事が都内各地を循環バスで巡りながら、そこで出会う謎を解き明かすというトラベルミステリ連作八話。 バス巡りの行程、道路や街の風景が徹底取材で非常に詳しく描かれ、名所や旧跡にはそれぞれ蘊蓄が述べられる。 この辺りがかなりページ数を使っており、ちょっと冗長な感じで、東京在住でもない私には何かピンとこない。 “謎”は日常の小さなものだが、謎解きはよくそれだけの手がかりで解けるねという、名探偵ぶりが過ぎる感じでした。
[寸評]
40ページほどの連作短編8編。 今で言う“介護ヘルパー”さんのようなものが江戸時代にあったのか定かでないが、今も昔も人が長生きすれば老碌介抱も当然必要なわけで、家族だけでは背負いきれない分、本作の“介抱人”のような助けもあったのだろう。 お咲を取り巻く人々が素直で明確に描き込まれているし、どの話も介護にいろいろなケース、事情があって面白く読める。 後の方の話がお咲と母親との確執に比重が傾いてしまったのはちょっと不満。
[寸評]
地域の忌まわしい過去を掘り起こすサスペンスミステリでアメリカ探偵作家クラブ賞受賞作。 物語は1952年のアニーが主体のパート、36年のアニーの母サラとその妹ジュナが主体のパートの2つに分かれ、交互に語られる。 終盤の、過去が一挙に呼び覚まされるあたりは、怒濤の展開で息をつがせない。 しかし序盤からあえて説明が少ない書き方で、登場人物の関係性もごちゃごちゃしていて、なかなか物語世界に入り込むことができなかった。