◎06年9月


アイの物語の表紙画像

[あらすじ]

 はるか未来の地球。 マシンが地球を支配し、少数の人間は各地のコロニーに住んでいる。 文字を読める人間が少なくなり、僕は人間が地球の支配者だった頃の古い小説などの語り部として、各地を回っている。 大昔、新宿と呼ばれた場所で僕は怪我をしてロボットに捕えられる。 解剖されるのではと恐れたが、アイビスという名のロボットは僕に物語を聞かせる。

[採点] ☆☆☆☆

[寸評]

 ロボットが人間に語って聞かせる6つの小説と1つの真実の物語。 いかにして人間が衰退し、マシンが地上の主となっていったか。 多少の現実味を感じさせる昨今にあって、この作品は読者のはるか先を行く想像力で、見事に説得力のある未来社会のあり様を見せてくれる。 中でもちょっとセンチメンタルな「詩音が来た日」と、全てを解き明かす最終話「アイの物語」が素晴らしい。 理解不能なロボット語も感動に水を差すことはない。


初恋温泉の表紙画像

[あらすじ]

 熱海温泉。 飲食店4軒を経営する重田は妻の彩子とともに宿を訪れる。 昨夜、彩子は突然別れたいと言い出した。 彼女はもう2年ほど前から離婚を考えていたと言う。 重田には全く理解できなかった。 彩子は結婚前は大手広告代理店でバリバリ働いていたが、結婚後は専業主婦となっていた。 夕食後、重田は「男ができたのか」とつい彩子に聞いてしまう。

[採点] ☆☆☆

[寸評]

 熱海や青森、京都などの温泉を舞台に、男女の微妙な”ずれ”が描かれる短編5編。 その”ずれ”についてどの物語も明確な表現はなく、どこかがすれ違っている、実に微妙な空気が流れている様子が巧みに表されている。 既婚者同士の浮気カップル、親に内緒で温泉一泊の高校生カップルなど、設定や台詞回し、情景描写なども巧さを感じさせる。 じゃあ話に引き込まれて面白いかと言われれば、それも微妙なところでした。


赤い指の表紙画像

[あらすじ]

 照明器具メーカーに勤める前原昭夫の携帯に妻から早く家に帰るよう連絡が。 彼は妻と中学生の息子、そして認知症が進んだ母親の4人暮らしだった。 痴呆老人となった父が死に、まもなく母も具合が悪くなり、一緒に住むようにしたのだ。 家に戻ると庭に見知らぬ女の子の死体が。 息子が首を絞めたらしい。 警察に連絡しようとする彼を妻が必死に止める。

[採点] ☆☆☆

[寸評]

 比較的短い物語で、ほとんど脇道なく一直線に話は進む。 事件や状況設定はありふれて、現代の日本では日常的に起こりうるもので、それはそれで無理にひねる必要はないとは思う。 しかし物語としてはもう一ひねり、二ひねり欲しかったし、全体にあっさりしすぎ。 犯罪ものというより人間ドラマを主眼としたようだが、やけに密度が薄い印象。 人間を描くなら、もっと濃く、深くえぐらないと、上辺だけでは読み手の心を動かすのは難しい。


ジウVの表紙画像

[あらすじ]

 SAT初の女性隊員で上野署へ転属していた伊崎基子は、西大井の信金爆破事件で7名が殉死したSATに班長として復帰する。 一方、基子の元同僚で碑文谷署門倉美咲巡査のもとに、何者かから基子の殺人現場写真が送られてくる。 とりあえず泳がされることになった基子だが、そのうち彼女の班は選挙のための首相の街頭演説の警備にかりだされる。

[採点] ☆☆☆★

[寸評]

 
1作目で驚き、2作目でちょっと話が大仰になってきたのに不安を覚えたシリーズの最終編。 今回もスピーディな展開と激烈アクションで面白さは十分。 歌舞伎町を封鎖して治外法権化するってのもかなりな話だが、姿を現した「新世界秩序」なるものがそれはないだろうと言うくらい穴だらけのちんけな代物でがっかり。 それでも戦闘マシン基子と人が良すぎる美咲の終盤のふれあい、そしてジウの真実には作り物でも心が動いた感じです。


天使と罪の街の表紙画像

[あらすじ]

 ボッシュは元ロス市警刑事の私立探偵。 昔、仕事で関わった元FBIで貸し釣船業を営んでいたテリーが死に、彼の妻から死の真相を調べるよう依頼が。 心臓移植を受けていた彼は毎日多くの薬を飲んでいたが、検屍で調べられた血液から薬の成分は検出されなかった。 何者かが薬に手を加えて彼を殺したのか。 船を調べると怪しい男の写真が出てくる。

[採点] ☆☆☆☆

[寸評]

 常に水準を越えるハードボイルドを提供し続けるハリー・ボッシュ・シリーズだが、本作も存分に楽しめる。 今回は、レクター博士を思わせるような殺人鬼(作者の10年前の作品で主役を張っていたという)を登場させ、ボッシュとFBI女捜査官のコンビとの壮絶な対決が描かれる。 アクションだけの作品ではない。 娘への無限の愛情を注ぐボッシュの姿は胸を締め付けられるものがある。 少々彼のカンが冴えすぎの感はありましたがね。


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