◎96年12月



[あらすじ]

明治末期の越後の雪深い山村を舞台とした愛憎のドラマ。 地主の屋敷に奉納芝居の振り付けのために東京から2人の役者、扇水と弟子の涼之助が呼ばれた。 涼之助はふたなり(両性具有)で妖しい魅力を持っていた。地主の息子の嫁が涼之助に近づく。 またこの村の近くの山には人を食う山妣がいると言われていた。

[採点] ☆☆☆☆★

[寸評]

 このところ面白本の連発ですが、これも相当なもの。力作です。 山村の人々の生活・民俗描写が興味深く克明で感心させられます。 3部構成のストーリーは大変にドラマチックで、かつスリリング。 あっと驚く展開に500ページの長尺も中だるみはまったく無し。 終盤の惨劇とふっきれたようなラストも感動を誘います。 もはや坂東眞砂子は民俗伝承ホラー作家の枠を超えたようです。



[あらすじ]

「百舌の叫ぶ夜」などの公安シリーズものの最新作。 前作「砕かれた鍵」で夫倉木を失った美希は夫の古巣警察庁特別監察官室の警部となっている。 前作の警察の解体再編を狙った事件で免職となった元警察官が次々と殺され、その現場に百舌の羽根が残されていた。 死んだはずの恐るべき殺し屋”百舌”がよみがえったのか。

[採点] ☆☆☆☆

[寸評]

 このシリーズのファンであり、主人公たちに思い入れの強い私には結構楽しめました。 逆に今までの作品を読んでいない人には、まあ面白いサスペンスアクション、といった程度かもしれません。 「百舌の叫ぶ夜」や「幻の翼」の頃の全編ナイフのような鋭さと冷たさが感じられないのは残念。 このシリーズに甘さはいらない。 そして美希の××シーン、もともと週刊ポスト連載だからなのか。やめてほしかったなぁ。



[あらすじ]

元大学助教授の武井は、話相手になっていた教授の12才の娘に自殺された過去を持つ。 今はマンションの警備員をしているが、そこに住む若い女作家が取り組んでいる事件の調査を手伝うことに。 それは13年前に起こった新興教団の集団自殺に絡み、5億円余を持ち逃げしたと噂される男女の行方についてのものだった。

[採点] ☆☆★

[寸評]

 「されど修羅ゆく君は」が面白かった作者でしたが、これはいけません。 話も人物設定も中途半端。 前作同様10代半ばの女の子が出てくるのですが、これがまたこんなやついねぇよ、というほど大人びたもの。 武井の過去の話はどうなったの? 何で大学助教授だった奴がこんなに度胸があって腕がたつの?  警察はどうしたの? こんなに簡単に人が殺されていいの? 不満だらけでした。



[あらすじ]

 シュグルーはしがない中年私立探偵。 副業にバーテンまでしていたが、問題を起こし今は弁護士事務所の地下室暮らしだ。 熱帯魚の回収事件で知り合ったバイカー族の親分から行方不明の母親探しを依頼される。 彼女は大物政治家の妻で、突然失踪していた。 シュグルーはベトナム時代の仲間の手助けを得て真相に迫る。

[採点] ☆☆☆

[寸評]

 年末で公私ともに忙しく、ちびりちびりと読んでいたらさっぱり筋が分からなくなってしまい、 こんな採点となりました。巷では結構評価は高いようです。 確かにつまらなくはないけれど、でも簡単に麻薬をやり、簡単に銃を撃ち人を傷つけ、簡単に抱き合う人々に感情移入するのは容易ではありません。 平気で殺し合いながら赤ん坊は神のように大事にするあたり、いかにもアメリカ人の描きそうなことだと思うのは私だけでしょうか。邦題もダサイ。


ホームページへ 私の本棚(書名索引)へ 私の本棚(作者名索引)へ