[寸評]
天下の険にたとえられる箱根の山の関所を舞台に、珍しく関所番士を主人公に据えた時代もの6話連作。
主人公は武士としては粗忽者と侮られることも多いが、一本気で考えるより先にからだが動く男。
しくじりも多いが立ち直りも早い。
気持ちの良い話で、関所の内情も興味深く、終盤には非常にサスペンスフルな場面も用意されている。
若者の関所番士としての成長譚としても読める。
頁数を増やして箱根関所でのエピソードをもっと読みたかったところだ。
リディアはメキシコのアカプルコで書店を営む女性。
今日は新聞記者の夫と8歳の息子ルカと一緒に親戚一同が母の家の裏庭でテーブルを囲んでいた。
ルカがトイレに入ったとき、ものすごい銃声と悲鳴が響き渡る。
そこにリディアが入ってきてルカを壁に押さえつける。
やがて銃声は止み、3人組と思われる男たちは去る。
長い時間動かずにいてリディアは警察に電話する。
裏庭には十六の遺体が残されていた。
[寸評]
夫が麻薬カルテルの記事を書いたことから一族は皆殺しにされ、生き残った女性と息子がアメリカを目指して逃走する。
カルテルはメキシコ全土で2人を捜している。
警察もまったく信用できない中、車や列車、徒歩での過酷な逃走。
常に死と隣り合わせ、全編恐ろしいほどの緊迫感に満ちたロード・ノヴェルだ。
登場人物も多彩で、先の見えない展開はまさに一気読みの面白さも持つ。
移民の増大という現実の中で、限りなくノンフィクションに近い迫力ある大作。
[寸評]
私立探偵もの4話連作。
元刑事の人脈からの紹介仕事をしている主人公は、銃弾が飛び交う中でも軽口を叩くといういかにもなハードボイルド探偵。
ただその軽口も軽妙というより、もうひとつツボに嵌まらない感じ。
展開は非常にスピーディーなのだが登場人物もめまぐるしく、どの話も途中でついていけなくなってしまった。
私の読解力の問題か、作者の文章力の問題かは分からないが、筋を追うこともできず、物語をまったく楽しめずに終わった。
[寸評]
「弧狼の血」、「狂犬の眼」に続くシリーズ3部作の完結編。
極道を毛嫌いする愚連隊の頭・沖虎彦を主人公に、全体を大きく2部に分け、時代的には「弧狼の血」の前と「狂犬の眼」の後の時代を描いている。
型破りでちょっとコミカルな面もある大上刑事の再登場が懐かしい。
前2作にも増して激しい暴力描写を伴いながらスリリングな物語がスピーディーに展開する。
迫力ある硬派な世界だ。
最後は少しあっさりしたものだったが、幕切れとしては納得できる。
[寸評]
日本ファンタジーノベル大賞2019受賞作。
「南朱列国演義」と「歴世神王拾記」というふたつの架空の歴史書を交互にひもといていく形で物語は進んでいく。
初めは少々とっつきにくいが、やがて作者の構築した世界に入れば意外と読みやすく、その壮大な物語世界の面白さに魅せられる。
異形のものたちが跋扈する不思議な世界の物語であり、ボーイミーツガールの爽やかさも併せ持っている。
圧倒的な迫力と残酷な美しさを持った戦争の場面が見物だ。
[導入部]
武藤家は小田原藩主たる大久保家に仕える。
一之介が父の隠居に伴い先手組方の役目を正式に賜ったのは今年の二月。
一之介と呼ぶのは両親だけで、姓と名を合わせた「武一」を通り名としている。
武一は二十七歳で武藤の家督と先手組方の役目を継いだ。
お役を務めて半年、上役から伊豆の代官所へ奉書を届ける使いを頼まれた。
夏の勢いの日が照りつける中、険しい箱根の山道で、竹筒の水はすでに無い。
[採点] ☆☆☆☆
[導入部]
[採点] ☆☆☆☆
[導入部]
元刑事の遊佐龍太は多摩川に近い川崎市の住宅街に住居兼用の探偵事務所を開いている。
調査員は遊佐ひとり。
夜11時半過ぎ。
今夜の仕事は複数の違法金融業者からの多重債務を抱えているAV監督のバーゴン・マコをガードするというもの。
今日の撮影場所の川崎の工業地帯の一角からマコを家に送るはずが、取り立て屋が追ってきた。
眼前の壁で火花が弾ける。
わずかに遅れて銃声が反響する。
[採点] ☆☆
[導入部]
昭和五十七年六月、沖虎彦は仲間の三島考康、重田元とプレハブの裏口に身を潜めていた。
それぞれ鉄パイプやバット、出刃包丁を持っている。
その平屋は広島の老舗暴力団、綿船組が仕切っている賭場のひとつだ。
そこには金貸しや質屋の旦那衆が集まり一番大きな場が立つところ。
三人は賭場に集まる金を横からかっさらう算段を立てていた。
沖のかけ声を合図に雄たけびを放って中に飛びこんでいく。
[採点] ☆☆☆☆
[導入部]
伍州科学院の梁斉河は途方にくれていた。
机上には偽史と小説が積まれ、伍州の南端の三石県で発掘された青銅器の写真が置かれている。
青銅器は矢を象った装身具のようで、軸の部分に刻まれた銘文に“壙”と“じ南”という国名がある。
しかしそのような国は歴史の中に存在しない。
所長からは両国存在の根拠を見つけるよう言明された。
そして考古学研究所の図書館から国名記載のある二書を見つける。
[採点] ☆☆☆☆
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