[寸評]
吉原の中では比較的小見世の山田屋の遊女たちの姿を、時代を前後しながら描く短編5編。
基本的には遊女たちの悲恋話なのだが、その蜻蛉のようなはかない人生と一気に燃え上がる熱情が見事に綴られていく。
相当にきわどく露骨な性描写も随所にあるが、そのまま彼女たちの激情の表現であり、納得。
編を違えて遊女やその家族の数奇な流転の人生が描かれる展開も見事で、とても新人の作品とは思えません。
[寸評]
犯罪小説の巨匠の油が乗る前の時期(1977年)の作品だが、かなりイケる。
笑いを誘うようなドタバタした展開はウェストレイクを、アル中に悩む主人公たちはローレンス・ブロックを思わせる。
ちょっとした小遣い稼ぎのつもりが、食えない連中がどんどん乗り込んできたり自ら墓穴を掘ったりと大忙しの展開で、台詞回しも楽しく、かなり楽しめる。
終盤のキレがもうひとつで、登場する女性陣にもう一癖欲しかったところ。
[寸評]
直木賞候補に挙がっている作品で、昭和初期の令嬢と女性運転手を主人公としたミステリ作品集の第2弾。
設定が面白く、制服に身を包んだ女性運転手”ベッキーさん”の颯爽とした姿にはシビレます。
とりわけ本書の第1作「幻の橋」のラストは痛快に決まりましたね。
全体としては面白さも微妙で、作者の熟練の技は感じますが、2作目「想夫恋」の暗号とかも、作者は楽しんでいるようでもあまり興味を惹かれません。
[寸評]
作者お得意の刑事捜査もの。
屈辱を受けた刑事が一歩一歩犯人に近づき、反撃を受けながらも・・・というストーリーは意外性に欠けるが、サスペンスに満ちた展開で面白い。
しかし、絶えず冗談や減らず口をたたく主人公は、作者はハードボイルドとして描いているのだろうが、私にはちょっと外れたキザ奴という感じに思えてしまった。
昔の事件との絡みもやはりそうきたか、と思わせる描き方で余分な印象でした。
[寸評]
オレオレ詐欺、放火、交換殺人といった題材に、得意の叙述トリックなども駆使して、めっぽう面白い短編5編。
いずれも3、40ページ程度だが、目まぐるしい展開の中で、変化球にほうろうされるような楽しみが味わえる。
中では表題作のひねりが弱いが、他の作品は切れ味よし。
おまけ(?)として、作者が傾倒する画家石田黙をモチーフにした短編ミステリとエッセイも掲載。
思い入れが強すぎるのか、短編の出来は今ひとつ。
[あらすじ]
天保八年晩秋の江戸吉原。
大火事で焼け出された三千人にのぼる遊女たちは仮宅に移り、小見世の山田屋は深川八幡前に移った。
朝霧は妹女郎の八津にせがまれ八幡様の参道に出たが、人の波にもまれ転んだところを半次郎という男に助けられる。
その半次郎が馴染みの吉田屋の宴会に同席していた。
半次郎の目の前で朝霧は吉田屋に抱かれる。
[採点] ☆☆☆☆
[あらすじ]
ライアンは裁判所の書類を指定された相手に配達する令状送達人。
自分のペースでやれるこの仕事が気に入っていたが、ちょっとした小遣い稼ぎのつもりで、ある男を探し出す仕事を引き受ける。
ところが男の身元を友人の警察官に調べてもらうと、とんでもないことが判明。
そいつは狂った連続殺人者だった。
しかし依頼主は大幅に報酬額を上げてきた。
[採点] ☆☆☆★
[あらすじ]
昭和初期。
財界の一翼を担う花村家の娘英子は、皇族華族のお姫様方も通う女学校の後期1年生。
毎日、車で送り迎えである。
運転手は女性の別宮さん、英子は親しみをこめてベッキーさんと呼んでいる。
ある日、資生堂パーラーで兄とミートクロケット(コロッケ)を食べていると向かいの席に二人連れの男が。
一人は財閥の切れ者、末黒野という男。
[採点] ☆☆☆
[あらすじ]
神奈川県警の刑事真崎は所轄の女性刑事赤澤奈津と、連続殺人犯の青井を追っていて取り押さえそこない、大怪我を負う。
真崎は脇腹を刺され1か月の入院。
赤澤は手首を切られ、いまだに右手が不自由だ。
真崎は退院後休暇を取るよう強要されるが、自らのネタ元を駆使して青井に迫ろうとする。
しかしネタ元の一人が青井に刺し殺されてしまう。
[採点] ☆☆☆
[あらすじ]
ここ1か月ほど町内で不審な火事が続いていた。
火の気のないところから火災が発生、先日は空き家になっていた木造家屋が焼け、ホームレスの老人が焼死。
後藤浩子は夫と2人の子供の4人暮らし。
高一の娘は素直だが、18才の兄のほうは高校入学後すぐ登校拒否になり、今も2階の自室に引きこもっている。
娘から兄が夜に外へ出ていると聞き驚く。
[採点] ☆☆☆☆
ホームページへ 私の本棚(書名索引)へ 私の本棚(作者名索引)へ