◎01年4月



[あらすじ]

 パーク・デヴォアは人員削減で20年勤務した製紙会社を解雇され失業中。 製紙業界の多くの会社に履歴書を送ったが反応はない。 そこで彼は架空の求人広告を出し、製紙業の生産ラインを監督できる者の履歴書を手に入れる。 その中から求人があった場合に自分よりも優先的に採用されそうな者たちを選び出した。 彼らがいなければ自分が採用されるわけだ。

[採点] ☆☆☆☆

[寸評]

 何とも無茶苦茶な論理で次々と殺人を重ねていく中年失業者の物語。 リストラは洋の東西を問わず深刻な問題だが、自分よりも優秀なライバルを消していき自分が採用されようという発想がまずすごい。 ごく普通の家族思いの市民だった男が日常的にいともあっさりと殺人を犯していく、その描写に残酷さはみじんもなく、そつなく仕事をこなしていくような姿にはぞっとさせられる。 一方、その姿を徐々に正当化して読み進む自分が怖くなる作品。



[あらすじ]

 47歳の趙泰三はタクシー運転手をしていたが事故でやめざるを得ず、保険金も食いつぶし借金に追われていた。 そんな時友人の李南玉から、健康マットの無店舗販売の話が持ちかけられる。 その会社の代理店長からネズミ講まがいの販売方法を聞いた泰三は消極的だったが、李の頼みで研修会に参加。 彼はそこで大きく心を動かされ販売にのめり込んでいく。

[採点] ☆☆☆☆

[寸評]

 ひたすら金と欲にしがみつく人間の姿を赤裸々に描いた物語。 頂点に向かって進みつつも破滅の予感を抱え、それでも欲望のおもむくままの生活を止められず、結局再び転落していく泰三らの姿は、先が見えてはいるもののやはり怖い。 自己破滅的な物語は特段新しい筋立てもないが、感情の起伏や立場の浮き沈みがテンポよく描かれ面白く読める。 懐疑的だった泰三が、研修会で巧妙なマインドコントロールを受け変貌する様が凄い。



[あらすじ]

 7世紀後半の唐代の中国。 県知事であり名探偵として名高い狄(ディー)判事は任地の蒲陽県に赴く途中、江城の町に立ち寄る。 江城は皇帝の愛娘の避暑地で離宮がある。 狄判事はここに2泊して河釣りで太公望としゃれこむ計画だったが、旅館での夕食後さっそくやっかいごとに巻き込まれてしまう。 謎の女に輿に乗せられ宮殿に無理矢理連れ込まれる。

[採点] ☆☆☆★

[寸評]

 作者は駐日大使として赴任したこともあるオランダの外交官。 1951年から没後の68年までに狄判事を主人公に15冊の長編があり、本作は14冊目。 唐代の名探偵という設定が珍しく、時代の雰囲気がほどよく出ており、物語は変化に富んでいてテンポよく進むので飽きることはない。 狄判事個人の魅力がもう一つ活かされていないのは残念。 作者自らが描いた挿絵が7,8ページあるのだが、なかなか味があって良い。



[あらすじ]

 7世紀末の中国は周朝。 女帝聖神皇帝(則天武后)の御代。 都洛陽にある宮城に15歳になったばかりの宦官の馮九郎と双子の妹の女官香蓮はいた。 ホトトギスの初鳴きがあった春の日、城内の池で宮廷付きの歌手が殺されており、池にはおびただしい数のツツジの花が水面を真っ赤に染めていた。 この時期、同様の事件が3年続いており、九郎は難事件に挑む。

[採点] ☆☆☆

[寸評]

 偶然にも同時代を舞台とした本を続けて読むことになったが、こちらは則天武后の宮城内を舞台とした推理短編集で全7話から成る。 才知に富む兄と行動的な妹の双子が宮中の醜い人間関係にもまれながら次々と難事件に挑むという設定にまず読書欲を駆り立てられた。 だが肝心の推理の冴えの方はどれももう一つの出来で、ユーモア交じりの話の流れもスムーズでない印象。 作者には失礼だが、この世界はぜひ
藤水名子で読んでみたかったところ。



[あらすじ]

 不良高校生の裕輔はおやじ狩りをしていて刑事に声をかけてしまい殴られるが、なぜかそのまま追い払われる。 その刑事の九野は上司の命令で、同僚を張っていた。 九野は7年前交通事故で妻を失い、墓参りを兼ねて義母の家に行くのだけが安らぎになっている。 そしてもう一人、スーパーでパートをしている主婦の恭子は夫と子供に囲まれ小さな幸せを感じていたが。

[採点] ☆☆☆☆

[寸評]

 前作
「最悪」以来2年ぶりの作品だが、あっと驚く場面も用意され、変化に富んだ物語が楽しめる。 話の流れも前作と同様で、3人の登場人物がどんどん深みにはまっていく展開は予断を許さない。 素直な文章で読みやすいのだが、逆に緊迫感は今ひとつで、あるべき"毒"は薄められ、変化が多いわりに全体にやや平板な印象を受けた。 しかし面白度は十分。 ほんの少しの救いと大きな絶望のまま終わったラストは、個人的には少々不満。


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