◎02年9月



[あらすじ]

 オックスフォード大に通う詩人志望の青年アラン・リトルウッドは、肺に小さな影が見つかり、夏期休暇を海岸沿いの村の医師宅で過ごすことになった。 自信家のポール医師宅には30代半ばのとても魅力的な夫人がいた。 医師と顔を合わせるのは食事時間と夜くらい、あとはミセス・ポールと話や散歩をして多くの時間を過ごし、アランは夫人に夢中になっていく。

[採点] ☆☆☆★

[寸評]

 昨今の展開の速いミステリーを読み慣れた者にとっては、まだるっこしく、一筋縄ではいかない医師夫妻の描き方から、勝手に先をあれこれ想像してしまうようなテンポではある。 物語は典型的な三角関係を描きながら、波乱を予感させる緊張感を全編にはらみつつ進むので退屈さは感じない。 手厳しい人間描写とポールに襲いかかる終盤の悲喜劇は、辛辣な英国的ユーモアの中でも相当なものだが、その辺を一度は味わいたい作品。



[あらすじ]

 昭和55年8月、美濃加茂の活魚卸会社でトラック運転手をしている荒勝明は帰り荷のアルバイト中に車をぶつけ会社をクビになる。 同時に解雇された時山らと社長の家を襲い、社長夫婦を殺害。 家に放火し、2人の子供にも重傷を負わせる。 主犯は時山だったが他の者が口裏を合わせ、荒は無期懲役に。 そして21年後、仮出所。 やがて荒は行方不明となる。

[採点] ☆☆☆☆

[寸評]

 1年前の作品だが、いくつか推薦のメールを戴いたので手を出してみたところ当たりでした。 いくつもの虚貌を駆使する犯人を追うダイナミックなストーリーと共に、死に瀕する刑事、スポットライトを夢見てあえぐ女性タレントやカメラマンらの生き様にも切り込んで読み応えは十分。 昨年あまり話題にならなかったのが不思議です。 救いの少ない話だが、終盤のアクロバティックな展開もサスペンスフルで、ぜひ映像化されたものが観たい。



[あらすじ]

 時代は天保(1830年代)、江戸時代の北海道は松前藩の支配下にあった。 松前藩はもともとこの地に住むアイヌの人々に圧制を敷いていた。 そんな折り、東蝦夷地の港に、幕府が建立した官寺、国泰寺に赴任する僧侶の恵然が降り立つ。 さっそく彼は和人に虐げられるアイヌの姿を見る。 しばらく後、アイヌの若者が磔にされる処刑場に黒装束の男が現れる。

[採点] ☆☆☆★

[寸評]

 圧政に苦しむ人々を救うため颯爽と現れ悪人どもを懲らしめる黒頭巾、というわけで胸のすく痛快な物語を期待したが、"それなり"の活躍に終わった感じ。 人を殺めることのできない僧侶が主人公ゆえ、懲らしめ度もやや中途半端。 血なまぐさいのも御免だが、悪人どもをやっつけるところやアイヌの人々が虐げられる様を、もうちょっとしつこく描いても良かったのでは。 そうすればラストのカタルシスもさらに増したと思いますが。



[あらすじ]

 元私立探偵のクルツは殺人罪で11年間の服役から仮釈放される。 彼はナイアガラの滝に近い地元のマフィア、ファリーノ・ファミリーに自らを売り込み、行方不明になっているファミリーの会計士の捜索と、輸送トラックが襲われている件の調査を申し出る。 さっそく会計士の家を訪ね妻に事情を聞くが、退出直後に会計士の妻は殺されクルツは警察に拘束される。

[採点] ☆☆☆★

[寸評]

 ホラーやSFでも有名な作者のハードアクション。 主人公のクルツが、拳銃と自らの肉体を武器として、遺恨を胸に闘う姿が小気味よいテンポで描かれる。 比較的短めの物語ながら、マフィア同士の抗争から、内部の争い、クルツの昔の事件等々が絡み中身は濃いが、ちょっと詰め込みすぎで中盤が分かりにくくなってしまった。 特に終盤の畳みかけるスリルは見事。 登場人物も個性の強い強烈な悪人が多数出てきて楽しませてくれる。



[あらすじ]

 アーカンソー州の弁護士トム・ヴィンセントは、ある黒人の消息調査依頼を受けミシシッピ州ティーブズという町に向かう。 そこには有色人種用の刑務農場があり黒人たちはひどい虐待を受けていた。 トムは罠にかかり殺人犯として逮捕拘禁されてしまう。 トムの友人で元海兵隊の英雄、アーカンソー州警察のアール・スワガーは彼の捜索にティーブズへ赴く。

[採点] ☆☆☆☆★

[寸評]

 
「悪徳の都」に続くアール・スワガー主演アクション。 作者の"スワガー"ものはどれも外れなしの面白さだ。 前半450ページを費やしてアールが徹底的に打ちのめされる姿を描き、後半一気に反撃に出る展開は痛快の一言。 アールが7人のガンマンを集めて回るところは映画「七人の侍」か「荒野の7人」そのまま。 彼らが悪人どもをなぎ倒し黒人を解放していく様子はまさに劇画の世界だが、細かいことは抜きにしてとにかく楽しめる。


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