◎99年6月



[あらすじ]

 1938年。アラスカで自前の飛行機で貨物運搬業をしているアメリカ人飛行士のオーエンは、事故で飛行機を失う。 昔南極を飛んだことのある彼は、領土拡大・権益確保を企むドイツに雇われ、船で再び南極へ。 途中、ノルウェーの捕鯨船と戦闘になり破損した船は近くの火山島に停泊するが、そこには行方不明だった他国の船があった。 その船内には苦悶の表情を浮かべた死体が。

[採点] ☆☆☆☆

[寸評]

 ナチスもので作者の名前がディートリッヒなんて雰囲気盛り上がりすぎと思ったら、非常に正統な冒険小説でした。 最初から最後までいささかの弛みもなくガンガン物語が進み、存分に楽しませてくれます。 この物語が実によく練られていて変化があって面白く、必死に困難に立ち向かっていく主人公が痛快で、手に汗を握らされます。 少々都合が良すぎるような部分もありますが、あくまで娯楽作なので許せます。



[あらすじ]

 日本有数のコンピューター会社の副社長羽嶋のもとに、25年前同棲中に姿を消した奈津子から突然呼び出しが。 あなたの息子が重体だという。 ソフト開発会社に勤める息子は、普段行かない新宿で酩酊状態で車にはねられ意識不明となっていた。 しかも警察から覚醒剤の売人として疑われているらしい。 存在すら知らなかった息子の本当の姿を知るために羽嶋は動き回る。

[採点] ☆☆☆

[寸評]

 単なる偶然なのか、
「日輪の果て」とまったく同じ設定で話は始まる。 面白さという点では同等かやや上回るくらいで、テンポもあるし人間もよく描けていると思う。 しかし自ら去っていった奈津子が25年もたってなぜ羽嶋に連絡してきたか、そこが説明不足というか引っかかる。 危険を認識しているはずの羽嶋らの行動は隙がありすぎるし、終盤の展開はいかにも旧態依然とした日本のミステリーそのもの。 ラストも少し淋しい。



[あらすじ]

 藤本は、両側を奇妙な形をした深紅色の岩山に挟まれた峡谷のようなところで目覚めた。 なぜ自分はこんなところにいるのか。 ここはいったいどこなのか。 近くに放り出されていたポーチの中に携帯用ゲーム機があり、スイッチを入れると「火星の迷宮へようこそ」との文字が。 無理矢理現実の迷宮ゲームの中に放り込まれたらしい。 やがて自分と同様に混乱している仲間に出会う。

[採点] ☆☆☆☆

[寸評]

 
「天使の囀り」の作者による文庫書き下ろしホラー。 序盤の設定段階から快調に話は進み、前半のオリエンテーリングのような軽めの展開も後半の惨劇を予感させるような上手い運びでぞくぞくさせられる。 その後半、人間狩りの様相を呈してくると異様な迫力と緊迫感に満ちてくる。 謎解きがやや意外性に乏しいが、特にラストが中途半端なのは惜しい。 もう一押しすればさらに50ページは面白い展開が楽しめたような気がするのに残念。



[あらすじ]

 警視庁捜査一課の若い刑事堀江は、タレコミ屋のビデオ販売業者浦部に呼び出される。 戸籍の上だけの妻である中国女を探してほしいと言う。 新宿のヘルスに勤めているというその女からは、律儀に毎月一度浦部のもとに手紙が来ていたが、それが途絶え、どうもヘルスにはもともと勤めていなかったらしい。 浦部と共にその女の部屋に入った堀江は冷蔵庫から大量のキャッシュカードを発見する。

[採点] ☆☆☆

[寸評]

 警視庁捜査一課の刑事たちを主人公とした表題作外6編の短編集。 刑事たちの心情、行動が自然に表現されていて雰囲気はとてもいい。 ただこれといって記憶に残るような作品がないのは残念。 唯一表題作のみ胸に迫るものがあったが、この設定はたしか浅田次郎の短編集にもあったと思う。 それと比較的若手の刑事までがひどく伝法な物言いをするのは少々気になりましたね。 また、書き下ろしでもない比較的薄い短編集がこの値段なのも不満。



[あらすじ]

 文政年間、直次郎は江戸の眼鏡専門店浜田屋の跡取り息子。 幼い頃両親を亡くし、祖父の善兵衛に育てられた彼は、眼科医の私塾に続き長崎でシーボルトの医塾に通った。 結局勉学に落ちこぼれ江戸に戻ったが、眼病に詳しい眼鏡屋として少しは知られている。 足繁く通う吉原で、花魁の薄雲太夫から、女でもかけられる眼鏡の工夫を頼まれる。 当時の眼鏡は紐を耳にかけるものだった。

[採点] ☆☆☆☆

[寸評]

 まずこの江戸時代の眼鏡屋という設定が奇抜で実に面白い。 当時の風俗も興味深く、生活力あふれる人々の暮らしぶりが生き生きと描かれている。 一方、長崎のシーボルトの事件はやや描き足りない印象で、肝心の直次郎の眼鏡屋としての仕事ぶりも後半は比重が減ってしまったのは残念。 嫌みのない人情味あふれる話だが、全体にカラッとした江戸っ子らしい空気が感じられ、たいへん気持ちの良い物語。


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