◎13年1月


喪失の表紙画像

[あらすじ]

 ブリストルの重大犯罪捜査隊所属のキャフェリー警部はスーパーマーケットの地下駐車場で実況検分をしていた。 牧師の妻ローズが買い物を終え、車のドアを開けてキーと駐車券を運転席に置いたところ、突然ゴムマスクを付けた男が彼女を押しのけ車を奪って逃走したのだ。 ところが車の後部座席には娘のマーサが乗っていた。 警部は単なる車の窃盗と考えていたが、少女発見の報はなく時間が経過していく。

[採点] ☆☆☆☆

[寸評]

 アメリカ探偵作家クラブ賞受賞作。 本作はキャフェリー警部ものの第5作で、2作が邦訳されているそうだが、私は初読。 大変サスペンスフルな物語で、ラストまで十分楽しめた。 余分なエピソードなどは極力排し、といって狭い話ではなく、結構広がりのある話が終盤まとまっていく様子はなかなか見事だ。 一方、人物描写は今ひとつで、肝心のキャフェリー警部のキャラがあまり魅力的でなく、”ウォーキングマン”という重要なサブキャラも効いていない。


噂の女の表紙画像

[あらすじ]

 北島は地方の小さな商事会社の新採。 先輩が買った中古車がその日のうちに故障したので、主任の後藤が言い出して販売店にクレームを付けに行った。 話合いは平行線だったが、その店には中学の同級生だった糸井美幸がいた。 当時は平凡でまるで印象に残らない女子だったが、今では色香を振りまく女になっている。 知り合いに電話で聞くと、糸井は今勤めている会社の社長の愛人だという。

[採点] ☆☆☆★

[寸評]

 男を次々食い物にしていく若い女を描く8編の連作短編コメディー。 人の噂話というのは好きな人が多いわけで、それが若い女の黒い噂となれば面白くないわけがないという感じで、どれも気楽に楽しめる本。 進むにつれ、話はどんどんブラックな方向に進んでいくが、あっけない結末(?)で物語は終わってしまう。 女の行動は少々安易すぎると思うし、いくらコメディーとはいえ、どういう方向でももうちょっと決着らしいものをつけて欲しかったですね。


ウエストウイングの表紙画像

[あらすじ]

 ネゴロが勤めている設計会社の支社が入っている四階建て地下一階の広い建物には、語学教室、進学塾、各種飲食店、文具屋等々、いろんなテナントが入っている。 2か月前にあるテナントが引っ越し、古い家具を置いていき管理会社も片付ける様子はないので、新たなさぼりポイントとして開拓した。 そこはどうも他の誰かも利用しているようだが、その誰かとは今のところ一度も会っていない。

[採点] ☆☆☆★

[寸評]

 設計事務所勤務のネゴロ、土水の汚染分析請負会社のフカボリ、学習塾に通っている小学生のヒロシの3人の交互の語りにより、ビルに集う人々の想い、ゆるい繋がりの様子が描かれる。 内容的には、作者の今までの作品と毛色は同じで、後半に大きな出来事があるものの、ページ数がかなり多くなった分、ちょっと中だるみ感がある。 それでも作者の文章の醸し出す柔らかなリズムが私の感性とシンクロするのか、心地よい読書が楽しめた。


斬の表紙画像

[あらすじ]

 文禄二年(1593年)九月、下野国藤篠領。 領主藤篠家の重臣龍田織部介は突如謀反の兵を挙げ、一夜のうちに主君を討ち、藤篠の一族はただ一人、17歳の澪姫を残し、全員斬首された。 澪姫は偶然乳母の里に出かけていて難を逃れたが、すぐに追っ手がかけられ、小姓の小弥太と二人、草原で敵に取り囲まれていた。 そこに長身痩躯の一人の牢人が現れる。 小弥太は男に助勢を願い出る。

[採点] ☆☆☆☆

[寸評]

 冒頭から物語は一気呵成に突き進み、一つの目的を目指し最後まで突っ走った。 まさに息もつかせぬ面白さと言える疾風怒濤の娯楽快作。 おまけに大どんでん返しも用意されているが、これは途中に伏線がいくつか設けられてあったが、期待に違わぬ驚き。 主人公は当然めちゃくちゃ強い、でも斬られる。 そのあたりの加減が巧い。 また超絶の剣技だけで見せる話ではなく、姫や小弥太にも一服の話が用意され、リズム・緩急の付け方も上手い。


繚乱の表紙画像

[あらすじ]

 元大阪府警の暴力団対策係刑事で不祥事が発覚して依願退職し、今は愛人と東京暮らしをしている堀内のもとに、同じく暴対係刑事で相棒だった伊達が訪ねてくる。 伊達は堀内の退職から2か月後、三角関係にあった愛人のヒモに刺されて懲戒免職となり、今は大手の競売屋の嘱託調査員となって、競売物件の調査のために上京してきた。 伊達の調査行に無職の堀内もつきあうことにする。

[採点] ☆☆☆★

[寸評]

 題名そのまま、利権に群がる悪人どもが入り乱れる中を、不祥事で警察を辞めた二人の元暴対刑事が真相を探って大暴れする作者お得意の悪漢小説。 物語は、近く競売に付されると噂のパチンコホールを調査する二人が金の匂いを嗅ぎつけて裏をとるべく食い下がるもので、入り組んではいてもほぼ一直線。 大阪弁で和ませながら長丁場を一気読みさせるダイナミックで牽引力のある作品だが、手傷を負いつつもちょっとこの二人、強すぎないか。


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