施設長 その1

 2007年の話です。クリニックを開設しようと思っていたときに、相談に乗ってくれた人が何人かいました。三浦半島の南端に位置する知的障がい者施設の施設長も、その一人で、Iさんといいます。私が静岡東病院(のちの静岡てんかん神経医療センター)に勤務していた時、Iさんは、施設利用者が乗るワゴン車を、静岡まで片道200キロ走らせ、日帰り通院していました。
 
 Iさんが付き添ってきた施設利用者はみんな、いろんな抗てんかん薬を服用しても発作が止まらない人で。私ども医師が使う言葉では、難治性てんかんと言いえる方々でした。

 Iさんに「どうして、静岡まで受診に来られるのですか?」と、私が質問すると。「静岡の診療が良いから、静岡に来ているのです」と。Iさんは、それまで受診していた病院やクリニックに対するマイナス評価をしません。

 そのIさんに、「いくら静岡が良いと思っても、片道200kmは疲れませんか?」と私が聞くと、「静岡からの帰りは、夕食時間になるので、一緒に来た利用者は外食を楽しみにしていて、なかでもTさんが『ハンバーグ』と言いながら、ハンバーグを食べるときの笑顔が最高なのです」と、笑い飛ばします。

 私は開業するときに、交通の便がいい、駅に近いクリニックを探していました。その時Iさんが、「障がいのある人が通院しやすいように、クリニックの前に駐車場があるといいですね」と言ってくれました。この助言のあとに、私は駅から少し離れているものの、駐車場がクリニックの前にある今の場所に、田中神経クリニックを創ろうと決めました。

2019年02月13日