てんかんについて

てんかんとは

 先日、戸塚駅から地下鉄に乗って、程なく着いた駅の近くにある施設で講演をさせて頂ききました。私がてんかんについての話をした後に、「自分のこどものために、てんかんのことや、脳波についても、理解したいと思っているけど、てんかんはわかりにくい、どのように勉強したらいいのか?」と、こどもがてんかんになった母から質問されました。

 私は、質問をしてくれた母親に、こどもが発作になったときの様子をお聞きして、お母さんがお医者さんからもらった脳波検査のコピーを見せてもらいました。そのうえで、「発作の症状が、体の特定の(一部の)部位から始まっている様子がなく、脳波検査では、てんかんの波が一部ではなく、全体に表れているから、部分てんかんではなく、全般てんかんですよ」と、私が説明しました。そうすると、患者さんの母親は「以前にかかったお医者さんからも同じような説明を受けたけど、正直言って、よくわかりました。と言えないのです。」と。

 私が、「私の説明でわかりにくいところがあれば、教えてください。」と聞くと、「部分とか全般とかいう言葉がわかりにくいし、脳波の異常といわれても、私にはわからない。こんな質問をする私が悪いのでしょうか?」と母。

 私は、「お母さんの質問には、何も、問題ないです。」と言ったあと、さらに、「てんかんを理解して頂くためには、時間がかかると思います。私も、てんかんを理解するためには時間がかかりました。」と、お母さんに伝え、また、田中としては、てんかんの事を理解して頂くために、『てんかん専門医の診察室から(かまくら春秋社)』にまとめて出版したので、読んで欲しいと伝えました。

 ここでは、てんかんについて、神田原さんという仮名の大学生の患者さんに登場して頂き、神田原さんが田中に質問する形式で、(田中の知る範囲で)てんかんについて説明させて頂きます。いろんな話を聞けば、時間はかかるけども、少しは分かったような気持ちになれるのでは?と思った次第です。講演のときに、質問してくださった母さんに届けばと思っています。

神田原さん その① 発作と脳波

 神田原さん「私(神田原)は、高校を受験するための勉強をしているとき、学習塾で突然に倒れました。これが、私にとって初めての発作(1回目の発作)です。この1回目の発作のときには、救急車で病院に運ばれたのですが、私は、発作の時に自分が、どのようになっていたのかを、覚えていません、実は、今回、大学で発作になって(2回目の発作)救急車で病院に運ばれたのが、3年ぶりの発作です。この時も、私が発作のときに、どのようになっていたのか?覚えていません。2回目の発作のあとに、受診しないとやばいと思って、田中神経クリニックにきました。」田中「神田原さんが、1回目や2回目に、倒れて病院に運ばれたときに、お医者さんになんといわれましたか。」神田原さん「1回目に運ばれたときは、血液の検査や、頭のCT写真をとったけど、異常がなくて、病院の先生は様子をみましょうと言われました。2回目に運ばれたときも、また同じ検査を受けて、検査に異常がないから、てんかんでしょうといわれました。」

 田中「脳波検査を受けましたか?」、神田原さん「2回目に運ばれたとき(脳波検査を)受けたけど異常がありませんでした。田中先生に、ちょっとお聞きしたいのですが、血液の検査やあたまのCT検査に異常がないと説明を受けましたが、検査に異常がなくて、てんかんっておかしくない?ですか」田中「てんかんは、脳波検査にてんかん性の異常が見られる病気だから、脳波に異常があれば、神田原さんも納得できますね。」神田原さん「そうなんです。検査に異常があれば、納得しやすいというか、納得せざるを得ませんね。」田中「それでは当院で今日、記録した脳波検査を見てみましょう」神田原さん「脳波の説明をよろしくお願いします。」(当院で記録した脳波検査を、田中は説明。脳波検査の説明は省略。)

 神田原さん「田中神経クリニックで記録した脳波に異常があって、なんで前の病院の脳波に異常ないのですか。」田中「予想が入りますが、前の病院で検査したときには、検査の時に、眠られなかったからでしょう。今日、田中神経クリニックで脳波を記録した脳波には、神田原さんが眠られてから、てんかんの患者さんでよくみられる波が記録できたのです。前の病院の検査のときに眠れていれば、今日と同じ波が記録できていたと思いますよ」

 神田さん「とういことは、私はてんかんですか。」 田中「発作が、これまでに2回あって、脳波にてんかんの患者さんによくみられる波があるから、てんかんと言えます。」

 神田原さん「田中先生。なんで、眠っているときに、発作の波がでてくるのですか?私が発作をおこしたのは、おきているときで、眠っているときではありませんよ。」田中「おきているときに発作がある他の患者さんでも、眠りかけにてんかんの波が、記録されることが多いのです。」神田原さん「おきているときには、脳波にはてんかんの波は出てこないのですか?」田中「おきているときの脳波に、てんかんの波がでてくる人もいます。脳波検査の結果にも、患者さんによって違いがあります。(神田原さんの)なんで眠っているときに発作の波がでてくるのか?の質問には答えられていませんが、田中としては、今日、田中神経クリニックで記録した脳波で、てんかんの波を見つけられたことが大事です。自信をもって、てんかんと診断できます。」

 神田原さん「もう一つ教えてください。今日、もし、田中神経クリニックの脳波検査で、異常がなかったら、先生は、私(神田原)をてんかんと診断しないのですか?」田中「神田原さんが1回目と2回目の発作のときに、神田原さんの体がどのようになっていたのか?神田原さんが発作になっているときに返事ができたのか?などの情報があり、その情報をもとに、てんかんの発作とみなせるか、否か?がカギになります。発作を目撃した人から豊富な情報があれば、てんかんと診断することもあります。」神田原さん「脳波検査なしで、てんかんと診断することもあるということですね。」田中「そうです。しかし、脳波検査なしでてんかんと診断した場合には、てんかんの診断の精度が落ちます。別の言い方をすれば、診断に対する確信を持てないことになります。」

 

神田原さん その② てんかんの診断

 田中「もう少し、田中に問診をさせてください。神田原さんには、大きな発作のほかに、手やゆびがピクッと、一瞬だけ動く発作はなかったですか?」神田原さん「ありましたけど。それがどうかしたのですか?」田中「神田原さんに、2回あった大きな発作について、情報が欲しいのですが、神田原さんは発作のときに気を失っていたので、神田原さんが発作のときにどのようになっていたのかは詳細不明です。これは仕方ないですね。1回目は学習塾で、2回目は大学で発作になったため、周囲に人がいたとは思いますが、神田原さんが発作のときにどのようになっていたかについての情報はありません。。」神田原さん「その通りです。倒れた時のことを覚えていないし、病院につくまでの間も記憶がありません。」

 田中「脳波検査の結果から判断すると、神田原さんには、倒れてしまう大きな発作とピクッとする発作を合併しても矛盾はないと考えます。」神田原さん「私にはピクッとする発作がありました。」田中「神田原さんにピクッとする発作があったのは確かなようなので、そのピックについて、さらに問診させてください。」

 神田原さん「なんでしょうか」田中「神田原さんの場合ピクッとするのは、手指が多いですか。」神田原「はい。もっていた鉛筆を飛ばしたことがあります。中学校のときからです。」田中「ピクッとするのは朝に多かったすか。」神田原「その通りです。なんでそんなことが分かるのですか?」田中「一つは脳波です。それともうひとつ、当院の検査室のスタッフが、神田原さんの手がピクッとしたのを、観察しています。あんまり派手な動きでなかったので、スタッフははてな?と思ったようです。もう一つは、脳波検査の結果です。私の経験では、神田原さんの脳波をみると、ピクッとする発作があるのでは?推測してしまう脳波なのです。」

 神田原さん「この話のながれからすると、田中先生は、ピクッとするのも、てんかん発作だと言いたいのですね。」田中「はいその通りです。」神田原さん「私の発作の症状や脳波の異常をもとに、てんかんだというのであれば、神田原は納得です。」田中「納得して頂いて、安心しました。」神田原さん「田中先生。私(神田原)がてんかんだということは、納得しました。で、治療はどうするのですか?」

神田原さん その③ 抗てんかん薬

田中「治療についてですが、神田原さんは2回目の発作があってから てんかんの薬をのんでいるのですか。」神田原さん「実は・・・。申し訳ない。」田中「神田原さんが話しにくそうなので、田中が話をさせて頂きます。神田原さんは、1回目に発作があったときに、救急車で運ばれた病院の先生から、薬を服用しないで、経過を見ましょうと言われたけど、心配になって、どこかの病院にかかったのですね。」神田原さん「そうなんです。なんでそれがわかるのですか?」田中「他の患者さんでも、そのようなことがあるからです。」神田原さん「正直に言わなくて申し訳ありません。」田中「田中としては、1回目の発作のあとに、薬を服用し始めたことを、とりあえず言って頂きありがたい、と思っています。」

 田中「さらに田中の推定で申しわけありませんが、神田原さんに大きな発作があったあとにてんかんの薬を服用した、その薬はバルプロ酸という薬だと思います。その薬を服用したら、それまで神田原にあった、ピクッとする発作もとまった。これは良かったと、神田原さんは思った。しかしながら、ある程度の期間、服用し続けると、神田原さんは、てんかんの薬をやめたいと思うようになった、そこで、薬をだしてくれた先生に、てんかんの薬をやめたいと伝えた。その先生は、将来的にはやめられるかもと言ってくれたけど、いつまでのんだらいいのか、はっきりと教えてくれない。はっきりしないのであれば、いっそ自分の判断でと思い、バルプロ酸をやめた。そうしたら、残念なことに、2回目の発作がおきた。これが、田中の考えるところです。」神田原さん「田中先生は、なぜそのように考えるのですか?」田中「神田原さんのように、患者さんは、発作が改善したら、薬をいつかはやめたい、あるいは、中止したいと思うものです。神田原さんは、自分の判断で、薬を止めたくて、やめた、そして2回目の発作になった。神田原さんは義理堅い人だから、自分勝手にやめたから前の先生に申し訳ない気持ちになっているのではないでしょうか。」

 神田原さん「田中先生、結論を教えてください。私はてんかんの薬を止められないのですか。」田中「はい、神田原さんは、てんかんの薬を止めない方がいいです。神田原さんに、なんで?と質問される前に私から説明させてもらいます。」神田原さん「ぜひ、説明してください。」田中「神田原さんには、倒れる発作があり、しかもその発作のあいだの記憶がなく、さらに、発作のあと病院に行ったわけですが、病院に行くまでの記憶がありません。大きな発作があったと考えます。加えてピクッとする発作があり、脳波にも異常があります。しかも、その脳波のパターンから考えると、神田原さんのてんかんは、全般てんかんだと判断します。全般てんかんの中でも、若年ミオクロニーてんかんと診断できるタイプでしょう。このタイプの方はてんかんの薬を止めると、発作が、再発する確率が高いのです。だから、薬を止めないでください。」神田原さん「脳波検査を理解することは、患者にとっては、難しいですね。さらに、全般てんかんと言われても難しですね。田中先生を信用するしかないですね。」

 田中「はい、信用してください。私が書いた、『てんかん専門医の診察室』に、実際の脳波を示しながら、全般てんかんと部分てんかんの違いについて説明してあります。」神田原さん「読みましたよ。先生の本を読んだから、私(神田原)は、ちょっとわかりました。」田中「正直に、ちょっとわかりましたと、言ってくれた神田原さんに、感謝します。」神田原さん「先生の話をきいて、てんかんを理解したいので、さらに、質問させてください。」

 田中「今日は待合室が混んでいるので、ここまでにしてください。」

神田原さん その④ いろんな薬があるのに何でバルプロ酸

 神田原さん「1回目の発作のあとに、実は、某病院の先生を受診したら、てんかんの薬を服用するように言われました。脳波には異常はなかったのですが、この時に、処方されたのがバルプロ酸でした。」田中「そのバルプロ酸を服用したところ、大きな発作はなかったし、ピクッとする発作も消えたのですね。バルプロ酸は、神田原さんの発作に良く効いたわけですね。」神田原さん「効いたことは確かですが、なんで、いろんな薬があるなかでバルプロ酸がえらばれたのか?」田中「若年ミオクロニーてんかんだから、バルプロ酸が有効だと思います。『若年ミオクロニーてんかん』という診断名を言うと、神田原さんに、わかりにくいと言われそうですね。」神田原さん「はい、わかりにくいですね。」田中「田中が重視したいのは、バルプロ酸を服用したあとに、神田原さんの発作がおきてないこと、また、神田原さんがバルプロ酸をやめたときに、2回目の発作がおきたことです。」

 神田原さん「聞きたいことは、バルプロ酸以外の選択肢はないのですかか?ほかにいい薬はないのか?ということです。」田中「私も神田原さんにはバルプロ酸を使いたいと思います。バルプロ酸に十分な効果がなければ、他の薬を使います。」神田原さん「ネットで調べると、女性にはバルプロ酸をつかわないほうがよいとの情報がありますよ。」田中「女性にバルプロ酸をつかわないようにしているのは、バルプロ酸をたくさん服用している女性から生まれたこどもに、健康障害があるとのデータがあるからです。神田原さんは男性ですから。」神田原さん「女性に悪いものは、男性にも?」田中「田中は、てんかんの診療をずっと続けてきて、バルプロ酸を使って、神田原さんと同じタイプのてんかんがある人を治療してきました。その経験を通して、バルプロ酸が有効であることを、身をもって経験してきましたからバルプロ酸を使いたいですが。」神田原さん「田中先生は新しい薬を試さないから、他の薬がどの程度効くか、わからないのでは?」田中「その通りです。もう少し、説明を加えると、神田原さんのようなてんかんにはバルプロ酸が有効だから、他の薬を試す機会が少ないのです。また、バルプロ酸以外の薬を、他の病院で処方されたものの発作がとまらなかった患者さんが、田中神経クリニックでバルプロ酸に変更したところ、発作が消失したこともあります。その一方で、バルプロ酸以外の新しい抗てんかん薬を使って、神田原さんのような発作が止まった患者さんもいます。私の経験だけでは足りないと思って、他の先生のデータを見るのですが、やはり神田原さんのタイプの方のてんかんの発作は、バルプロ酸が有効なのです。」

 神田原さん「もしバルプロ酸を服用している女性が受診したら、先生はバルプロ酸を、他の薬にかえるのですか。」田中「バルプロ酸をたくさん服用している女性から生まれてくるこどもに健康障害が多いことを、まず患者さんに説明します。毎日服用するバルプロ酸をできるだけ減らします。一日の服用量が600mg以下を目安とします。」神田原さん「減らすだけですか?」田中「ちょっと待ってください。患者さんに減量の話をすると、減量することに賛成してくれる人もいますが、患者さんは発作が出現するリスクを非常に心配されます。発作があると、自分がどのようになるか、また周囲の人がどのように反応するか?このようなことについては、患者さんが身をもって体験しています。治療するときには、患者さんの心情を大切にしないといけません。」神田原「患者さんによって方針は変わってくるということですね。」田中「その通りです。」神田原「患者さんの心情を無視すれば医療ではなくなりますね」田中「はい、その通りです。」

神田原さん その⑤ バルプロ酸がなかったころ

 神田原さん「1974年にバルプロ酸が発売されています。」田中「私はまだ、学生でした。」神田原さん「バルプロ酸が発売されるまえは、私と同じタイプの人では、発作が止まらなかったから、大変だったのでは?」田中「そのころのことを語ってくれる患者さんがいます。 その患者さんは、戦前、患者さんが小学校のときに、ピクッとする発作(ミオクロニー発作)が始まり、大きな発作も、年に数回繰り返していました。学校で友達から『指が(ピクッと)動くのは癖なの?』と、友人から言われたそうです。患者さんの兄が、東京の病院に連れて行ってくれたのが30歳ごろ、昭和30年台の後半でした、」

 神田原さん「昭和30年は1955年だから、まだバルプロ酸は発売されていませんね。」田中「その患者さんは、フェノバルビタールとういくすりが処方されたあとに、大きな発作がおこらなくなりました。」神田原さん「小学校のとき、10歳で発作が始まった。その時は戦前ですから、現在その方は70歳を超えていますね。」田中「その通りです。」神田原さん「バルプロ酸がなかったときいは、フェノバルビタールを使っていたのですね。」田中「その患者さんの発作はフェノバルビタールを服用後に止まったものの、眠気が強くて。」神田原さん「眠気が強いから、なんとかしてほしいということで、田中神経クリニックを受診して、バルプロ酸に変えたら、眠気が消えたとの話でしょうか?」田中「神田原さんの言われる通りです。フェノバルビタールをバルプロ酸に変更したら、患者さんの眠気が消えてスポーツジムにも行けるようになりました。。」

 神田原さん「今はもう、フェノバルビタールをつかわないのですか?」田中「バルプロ酸で発作が十分にコントロールされないときに使います。」神田原さん「フェノバルビタールには眠気がありますよね。」田中「眠気が出ないようにするために、毎日の服用量を少なくします。」神田原さん「バルプロ酸もフェノバルビタールも無効の場合もありますか?」田中「はいあります。」神田原さん「バルプロ酸もフェノバルビタールも無効のときに、使う薬はあるのですか?」田中「神田原さんのように、大きな発作が止まらないときには、新規の抗てんかん薬がない時代には、田中はクロバザムやゾニサマイドを使ってきました。」神田原さん「バルプロ酸以外にも、使う薬があったことがわかりました。」田中「その通りです」神田原さん「田中先生は、私と同じような患者さんで、発作がとまらないときに、新しい薬を試す前に、いろんな薬を試したのですね。」田中「その通りです。」神田原さん「ちょっとまってください。バルプロ酸とどのくすりをくみあわせたら、一番いいのですか」田中「いちばんいい組み合わせは、わかりません。バルプロ酸とフェノバルビタール、バルプロ酸とクロバザム、バルプロ酸とゾニサマイドで、大きな発作がとまった人がいます。」神田原さん「その延長として、新規の抗てんかん薬が発売されて、使われるようになってきた、とのことですね」田中「はい、その通りです。」

神田原さん その⑥ 他の患者さんの発作を目撃

 神田原さん「待合室で他の患者さんの発作をみました。」田中「私は職業柄、ほかの患者さんの病状を神田原さんに話をできません。」神田原さん「ここは、架空の人として、先生に質問したいことがあります。」田中「神田原さんが、御崎口さんの発作を見たことにしましょう。」神田原さん「神田原はクリニックの待合室で,御崎口さんの発作みて、考えたことがあります。」田中「どうぞお話しください。」神田原さん「まず動作が止まって、そのあとに、あたりを見回すような仕草をしていました。そのときに、そばにいた、家族と思われる男性が患者さんに声をかけていたのですが、返事はありませんでした。」田中「で、神田原さんの質問は?」神田原さん「私(神田原)は、自分も発作になると意識がくもります。ですから、神田原が発作になったときも、御崎口さんと同じようになっていたと思うのですが、それでいいですか?」

 田中「田中は、神田原さんは、意識が曇り倒れました。一方、御崎口さんは、意識が曇って、からだがガクガクするのではなく、あたりを見回すような仕草をしていました。」神田原さん「意識が曇っていたことが共通しますよね。御崎口さんの発作を見ていると、からだの動きに左右差がないのです。だから私は御崎口さんの発作は、部分発作ではなく全般発作だと考えたのです。だから、私と同じ全般発作と考えました。」田中「実は、御崎口さんの発作は部分発作です。」神田原「なんで?」

 田中「御崎口さんの発作の症状に左右差がない。だから全般発作ではないかと、神田原さんは考えるのはよくわかります。しかし、脳波を見ると、御崎口さんの脳波には、部分てんかんの脳波異常が見られるのです。」神田原さん「脳波を優先して、部分てんかんと診断するのですか?」田中「そこのところは、次のように考えます。」神田原さん「このあたりは、難しいので、ぜひわかり易く、説明してください。」田中「部分発作は、次のように決められいるのです。大脳の片側から、てんかんの発作が始まっていれば、部分発作なのです。」神田原さん「部分か全般かを判断するために脳波が必要ということですか。」田中「発作の症状と、脳波の結果をもとに部分発作かどうかをきめます。脳波は重要です。発作の症状が典型的であれば脳波がなくても判断できますが、その精度は落ちます。」

 神田原さん「部分と全般に分類することの必要性について教えてください。」田中「神田原さんのように、全般てんかんの方にはバルプロ酸を、御崎口さんのような部分てんかんの方にはカルバマゼピンを服用してもらうことを原則としてきました。これはあくまでも原則ですが、この原則に従って治療すると、患者さんの発作を抑える確率が高まります。」御崎口さん「原則ということは?それ以外の薬を使うこともあるのですね?」田中「はい、その通りです。」御崎口さん「部分てんかんの患者さんの発作がバルプロ酸でとまることがありますか?」田中「はい。あります。」御崎口さん「ちょっと待ってください。例えば、部分てんかんの発作がバルプロ酸でとまっていたら、田中先生はどうするのですか」田中「それは、簡単です。患者さんと相談します。」

神田原さん その⑦ 発作がとまらない御崎口さん

 神田原さん「御崎口さんの発作も、てんかんの薬を服用して止まったのですか?」田中「実は、止まっていないのです。毎週発作があります。」神田原さん「え。御崎口さんは、毎週救急車で運ばれているのでですか?」田中「救急車をよぶことはありません。」神田原さん「大丈夫ですか?」田中「御崎口さんの発作は、持続時間は60秒ほどで、何もしなくても次第に回復します。、毎日服用する薬を調整することが大切です。救急車で搬送する必要は原則ありません。」神田原さん「原則というのは?説明してください」田中「発作のときに、たまたまおおきなけがをしたときには、救急車が必要になりませす。」

 神田原さん「先生のホームページに、先生が診療しているにもかかわらず、発作がとまっていない方が登場してもいいのですか?」田中「実は、発作がとまっていない患者さんから、発作がとまらないで困っている人がいることを伝えて欲しいとの、要望があったのです。」神田原さん「知りたいですけどいいのですか?」田中「御崎口さんは、架空の方としてお話しさせて頂きます。」

 神田原さん「御崎口さんは、田中先生のクリニックに通っても発作がとまらないのであれば、てんかんセンターに紹介したりしないのですか?」田中「はい、御崎口さんは、てんかんセンターから紹介されて当院に通院しているのです。」神田原さん「どうしてですか?」田中「病院を選択するときに、病状や病院の特徴は大きな要素ですが、距離的あるいは経済的な問題もありますからね。」

神田原さん その⑧ 意識がくもること

 神田原さん「てんかんの病気と他の病気やっぱり違うところがあるように思います。」田中「神田原さんが違うと思うところは?」神田原さん「うまく言えないのですが?」田中「医師からすると、症状、すなわち発作のときの患者さんの様子ですね、それと検査、てんかんの場合には脳波検査ですね、症状と検査を組み合わせて診断して治療を検討するわけですから、他の病気と手順は同じです。」神田原さん「そこじゃないのです。上手に言えないですが。」田中「発作の症状については、田中は、多くの患者さんから話を聞いているだけではなく、脳波を記録中に患者さんが発作になれば、そのときの症状も脳波も私は見ています。田中は病気としてのてんかんを理解しているつもりです。しかし、てんかんに対する考え方、とらまえかたは、患者さんによって差があります。」神田原さん「どんな差があるのですか。」田中「十人十色と私は考えてます。神田原さんの考えを語って頂ければと思います。」

  神田原さん「てんかんがある人としての心情を語らせて頂いていいのですね。」田中「そうなんです、心情については、私たち医師は、患者さんの話を傾聴しないとわかりません。」神田原さん「心情をを語るのは、データの説明よりも難しいと思います。」田中「そうなのです、心情だけを聞いても、わかりません。神田原さんについては、ここで神田原さんの病状について説明させて頂いたわけですから、神田原さんの率直な心情をお聞きできればと田中は思います。」神田原さん「そうですね、患者さんに起きている発作をぬきにして、心情だけを語っても読む人には伝わらない。ですね。」田中「そうなんです、神田原さんが御崎口さんのことを語るのでもなく、田中が語るのでもなく、神田原さんの話を聞かせてください。」

 神田原さん「どこから話をしていいのか迷いますが、2回目の発作をおこしたときに、自分はなんの病気かわからないものの、このままではやばいと思いました。」田中「やばいとは?どのようなことですか。」神田原さん「1回目の発作があったあと(自分の意識は曇っているので)自分で発作のことがわからないので、数日後に、塾の先生に聞いたら、授業が終わって帰ろうとしたときに、出口のところで倒れていたと教えてくれました。それ以上は、塾の先生もわからないのです。」田中「わからないまま救急車で病院に運ばれたことになりますね。」神田原さん「ちょっと躓いて転んだだけでは、救急車を呼ばれません。それなりに大変な状態があったから、救急車では運ばれたと考えました。」

 田中「学習塾で発作(1回目の発作)になって、救急車で搬送された病院の先生は様子を見ましょう、経過観察しましょうといわれたけど、神田原さんは心配になって、別の病院を受診されたのですね。」神田原さん「救急で運ばれたさきの病院の先生がどうのこうのではなく、心配でした。そこで他の病院を受診すると、バルプロ酸が処方されました。その先生は、てんかん専門医ではないけど、てんかんの患者さんを診療していると言っていました。バルプロ酸を服用しても、発作を繰り返すときには、静岡てんかん神経医療センターなどの専門の病院に行くように言ってくれました。」

 神田原さん「1回目のあとに、自分はバルプロ酸を服用しました。発作が2年ほどおきないと、自分はなおったと思ったし、自分は病気ではないのではと思いました。」田中「病気ではなくて、何と考えたのですか」神田原さん「高校を目指して受験勉強をしていたから、寝不足で疲れていたから、疲労が原因で発作になったのだと思っていました。検査でも異常がないと言われたことも、自分が病気ではないと考えはじめたことに関連しています。」田中「2年間発作がない。だから、抗てんかん薬をのまない日が、次第に増えてきたのですね。」神田原さん「自分は病気ではないと思って薬を止めたら、大学で発作になったわけです。病気ではないと思っていた自分の考えが間違っていたと実感したわけです。その時に、やばいと思ったわけです。」

 田中「やばいと思ったときの、心情を教えてください。」神田原さん「自分の病気の症状が自分でわからない。発作をおこしているときには、自分は気を失っているから、自分がどのようになっていたかわからないのです。周囲の人はわかっていて、周囲の人は心配しているかもしれない、何せ救急車をよんでくれたのですから大変な状態であったと思うのですが、自分はわからない。複雑なんです。自分でわからないから、くやしかったし、自分だけとりのこされたような感じもあったし、3回目の発作が来るかもしれないとか、このあとに自分はどうなるのかとの不安もありました。」

神田原さん その9 発作が止まる止まらない

 神田原さん「私のてんかんは、先生の診断では、若年ミオクロニーてんかんでバルプロ酸を服用しつづければ、発作はでてこないと考えていいのですか?」田中「そのように考えてください。神田原さんのように、バルプロ酸だけで発作がとまっていれば、心配ご無用です。」

 神田原さん「そう言って頂けると、少し安心ですが、先ほどの御崎口さんのように、意識がくもる発作が繰り返しているひとは大変ですね。」田中「繰り返している発作をなんとか止めてあげたいと思うのですが、簡単に行かないこともあります。」神田原さん「先生の本には、部分てんかんにはカルバマゼピンをつかってきたけど、最近は新薬を使うこともあると記載されていました。」田中「てんかんを大きく全般てんかんと部分てんかんに分けます。全般てんかんの方ではバルプロ酸だけで、部分てんかんの方ではカルバマゼピンだけで発作が止まれば良いと思っています。御崎口さんはカルバマゼピンを服用しましたが、発作が止まらなかったので、新しい薬を試しているところです。」

 神田原さん「御崎口さんは、カルバマゼピンをのんでも、発作がとまらなかったのですね。そんなとき2番目の薬として何を使うのですか?」田中「まずその前に、2番目の薬を使うかどうかを考えます。」神田原さん「2番目の薬の名前を教えて欲しいのですが」田中「ちょっと待ってください。重要なことなんですが、1番目の薬について、十分な量を服用してきたか?という点を、田中としては説明しておきたいのです。」神田原さん「きちんと服薬していたか?別の言い方をすれば、忘れずに服用してきたか?ということですか」

 田中「その通りです。患者さんが服用を忘れた可能性もありますが、患者さんが実際に服用してみたところ、眠気などの副作用があったために患者さんが服薬をためらった可能性もあります。それから神田原さんのように、薬が効いてしばらくすると、薬を止めてもいいだろうと思って、薬を止める人もいますので。」神田原さん「痛いところを突いてきますね。」田中「効いていたのに、不規則に服用していたために発作になったのであれば、しっかりと服用するように、説明する必要があります。2番目の薬として何を使うのかを考える前に、ひとつの薬をしっかり使うことが重要です。」

 田中「部分てんかんの診断が確かであれば、ラコサミドやラモトリギンを使います。レベチラセタムやトピラマートやガバペンチンやゾニサマイドやクロバザムを使うこともあります。」神田原さん「たとえばラコサミドを2番目の薬として選んだ場合に、それまでに服用していた薬はどのようにするのですか?」田中「その点についても、丁寧に進める必要があります。まず、2番目に選んだ薬を少しだけ追加します。そのうえで、患者さんが2番目の薬を服用できるか否かを確認します。薬によっては、服用したすぐ後に薬疹が出て、服用を継続できない場合があります。そのようなときには、2番目の薬をすぐに中止することになります。」 神田原さん「2番目の薬を服用可能と判断した場合には、1番目の薬を減らすのですか?」田中「その時にも、私は慎重な判断が必要と考えます。1番目の薬の効き具合が大切です。」神田原さん「1番目の薬が、効いて発作が減った患者さんと、1番目の薬が全く効かなかった患者さんでは違う。ということですか?」田中「その通りです。個別に考える必要があります。患者さんによって状況に差がありますから。」」