[寸評]
カルーセル麻紀をモデルとした物語。 ただし家族構成、登場人物、出来事のほとんどは虚構だという。 主人公の希望はとにかくきれいになること。 偏見ばかりの時代、他人に何を言われようが、どう思われようが、自分の生きたいように、自分を信じて進んでいく主人公の潔さが気持ちいい。 もとは新聞連載ということで、かなりの長編だが、波乱に富んだ紆余曲折ある物語はたいへん面白い。 さまざまな障害をものともしない主人公のたくましさに圧倒される。
[寸評]
子どもを持つこと、親になることを巡る40ページ程度の5つの短編からなる作品集。 それぞれの主人公の年齢は20代から50代とさまざま。 子どもを持つ、持たない、子どもができる、できない、思いがけず子どもを失うなどの事柄に、登場人物たちがそれぞれの考え方で“いる未来”、“いない未来”の幸せを求めていく。 いろいろな思い、考え方が提示されるが、深刻な描き方ではない。 どの話も短くて深みはないが、スッキリした印象の短編集だ。
[寸評]
英国推理作家協会の最優秀歴史ミステリ賞受賞作。 経験豊富だが人生に倦み疲れ阿片の力を借りることもあるイギリス人警部と、若いインド人刑事のコンビが、政府高官の殺害事件に挑む。 抵抗運動の闘士なども絡んで事件の謎は広まり、政治的様相も呈していく。 統治軍と警察との軋轢も深い。 当時のインド人社会の雰囲気やイギリス統治との緊迫した関係が興味深く、ミステリとして比較的読みやすく面白い。 タイムリミットも設けたりして十分に楽しめる。
[寸評]
一部の登場人物がつながる形式の4編の連作推理短編集。 縦横に仕掛けを施した叙述トリックミステリーで、真相は巧みに隠されており、騙される面白さがある。 各編の最後のページにネタを明かすという写真が付いているのだが、読み方が悪いのか勘が鈍いのか、それを見ても理解できるものとできないものがある。 最終話が済んでもすべてを明解に解き明かすのではなく、読み手の想像に任せる部分もあるようで、ちょっともやもやした感じだ。
[寸評]
高校教師、掃除婦、電話交換手、事務員、救命救急室の看護師、刑務所の教師など紆余曲折ある、作者ルシア・ベルリンの実人生そのものを素材としたという短編集。 削ぎ落としたような荒々しく剥き出しの言葉が並ぶ文章だが、かつ繊細で詩的な描写と感じさせるもので、不思議な雰囲気を持っている。 24編が収録されており、印象に残る作品は多いが、刑務所の文章クラスを受刑者の側から描いた「さあ土曜日だ」が物語としては最も面白かった。