◎02年1月



[あらすじ]

 19世紀後半アメリカ西部。 ダッジシティの警察副署長をしていたワイアット・アープは、兄のヴァージルら兄弟たちと銀鉱のあるアリゾナ州トゥムストーンに移り住む。 郡の保安官代理をし、マティという女と暮らしていたが、ショウ巡業のコーラスガールのジョージイ・マーカスに心を奪われる。 やがて彼女は町の保安官ビーハンと婚約しトゥムストーンにやって来る。

[採点] ☆☆★

[寸評]

 
私立探偵スペンサーで知られる作者のウェスタン。 ワイアット・アープを主人公にどんなガンファイトを見せてくれるかと楽しみだったが、ファイト場面はいずれも比較的あっさりしており、これなら佐々木譲の北海道ものの方がはるかにわくわくさせてくれる。 アープもドク・ホリデイも人間的魅力を感じさせるまでには描き切れておらず、有名なクラントン一家との対決も決闘に至る経緯が描き足りない。 ガンマンの物語ではなく兄弟愛を描いた西部劇でした。



[あらすじ]

 1986年、ソ連が侵攻中のアフガニスタン。 東部の渓谷でソ連兵4人が、副司令官に不正を訴えて逆に反逆者として射殺された仲間の恨みを晴らす。 その頃彼らの上官だった中尉と同行していたKGB少佐。 6人はアフガンからの帰還後、それぞれ犯罪組織に身を置いた。 2000年、警視庁の捜査官荒垣はロシアの対日麻薬密輸ルートを探るためモスクワに降り立つ。

[採点] ☆☆☆☆

[寸評]

 傑作
「砂のクロニクル」を彷彿とさせる久々の作者本来の作品。 アフガンからロシアへ、今話題の人物も登場し、さすが巨匠は目の付け所が違う。 酷寒の地を血に染める叙事詩はドラマの流れも良く、とりわけ終盤の流血は迫力がある。 しかしやはり巨匠も少し枯れてきたかなと思わせるのは、いくら屍の山が築かれても、以前の行間から迸り出てくるようなエネルギー、悪への衝動といったものがやや薄い。 登場人物の叫び声も心持ち小さいような。



[あらすじ]

 新潟県警捜査一課の刑事鳴沢了は非番の日に殺人事件で呼び出される。 80近くの老婆が殺され、管轄は鳴沢の父が署長を勤める魚沼署だった。 鳴沢は子供の頃から父とは会話らしいものもなく、お互いを避けているような関係だった。 地元署の新米刑事に手を焼きながら捜査を続けると、戦後間もない頃、被害者が新興宗教の教祖だった事実を掴む。

[採点] ☆☆☆

[寸評]

 "真面目"の上に"クソ"がつくほど真っ直ぐな性格の警官を主人公にした刑事ドラマ。
「8年」で爽やかな野球小説を読ませた作者だが、きっと真面目な人なのだろう。 破綻のない物語で安心して最後まで読めるものの、半世紀前の事件を引きずるのも意外性に乏しく、面白味も少ない。 真面目な主人公の一人称で全編語られるので、よけいに窮屈な感じ。 息詰まるサスペンスなら良かったが、読んでいて息が詰まっちゃいました。



[あらすじ]

 早坂萌は27才独身、輸入代行会社の主任。 5才からの友達、るり子の3回目の結婚式に出席し、隣り合った男とホテルへ。 一方るり子は、結婚した途端、それまでの恋愛に関わる種々のイベントが終わり、体中から空気が抜けてぼんやりした気分に襲われていた。 萌はさんざん客に電話で毒づかれた夜、会社にバイトに来ていた若い男を自室に上げてしまう。

[採点] ☆☆☆★

[寸評]

 読み始めたところで"直木賞受賞"とのニュースがあり驚いた作品。 序盤は若い女性読者に媚びた恋愛ものかと思ったが、萌とるり子そして家出中の男子高校生の奇妙な同居生活が始まると俄然面白くなる。 歯切れの良い文章で、登場人物がみな生き生きと描かれていて気持ちがいい。 また、るり子の人生観、恋愛観がやたらに毅然と打ち出されていて痛快。 結末には共感できないが、読み終わって
「もう頬づえはつかない」を思い出しました。



[あらすじ]

 建設コンサルタントの二宮は、在日朝鮮人の趙成根に騙され、代金決済のないまま建設機械を取られてしまう。 一方、暴力団二蝶会の若頭は趙のイカサマ話に3千万円を騙し取られ、部下の桑原に北朝鮮に逃走したという趙を追わせる。 桑原は以前から知り合いの二宮と観光団に加わり平壌へ行くが、ガイドや地元警察の監視がきつく自由な行動はとれない。

[採点] ☆☆☆☆

[寸評]

 
「肩ごしの恋人」と直木賞を争った作品。 二宮・桑原コンビは97年の「疫病神」以来だが、今回も掛け合い漫才よろしく大いに楽しませてくれる。 そういえば前回も直木賞候補でした。 北朝鮮国内の様子がたいへん興味深く、不自由きわまりない国での2人の奮闘ぶりがサスペンスたっぷりに描かれていて実に面白い。 事件の真相はかなり入り組んでいて分かりにくいが、娯楽作だからそういう部分は許しましょう。 涙ものの幕切れもいい。


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▲ 「もう頬づえはつかない」

 1978年、早稲田大学文学部の見延典子の卒業小説。 当時の若い女性の生き様、感性を感覚的に描き、50万部を超えるベストセラーとなった。 翌年、東陽一監督、桃井かおり、奥田英二主演で映画化され、キネマ旬報ベスト10の第8位にランクされた。 「肩ごしの恋人」を読み終わった時、この映画のラストが思い起こされました。