「セントメリーのリボン」
作者 稲見 一良 出版社 新潮社 93年
行方不明の猟犬を探す探偵をしている男を主人公とした表題作の他、全5編の短編集。
稲見一良の作品は、どれも無駄をそぎ落とした文体に、誇りを持つ男や少年の心を忘れず夢を追い求める男たちの姿が描かれ、素直に感動できるものばかり。
読んだ後じっくりと余韻に浸れる作家ですが、残念ながら3年ほど前に亡くなられました。
他に「ダック・コール」「ダブルオー・バック」「ソー・ザップ!」「男は旗」など駄作なし。
「カディスの赤い星」
作者 逢坂 剛 出版社 講談社 86年
フリーのPRマンの漆田はスペインのギター制作家からサントスという名の日本人ギタリストの捜索を依頼される。
調査が進むにつれ、スペイン内戦と複雑に絡んだ事件が見えてくる。
超お薦めの「百舌の叫ぶ夜」を頂点とする冷たい魅力の公安シリーズとは別に、スペインを舞台とした娯楽性十分な作品群も逢坂剛の得意とするところ。
本作はかなり厚いが一気読み間違いなし。
「斜影はるかな国」「幻の祭典」などスペイン関連の面白本多し。
「新宿鮫」
作者 大沢 在昌 出版社 光文社 90年
警視庁新宿署の単独捜査官鮫島警部を主人公とする警察小説で、第1作では連続警官殺しとそれに関連して銃密造犯を追う鮫島を描く。
この後、「毒猿」「屍蘭」「無限人形」「炎蛹」と続いている。
大沢在昌は他にもかなり多くの作品を出しているが、他の本はどれも軽めで雑な印象でそのテンポにもいまいち私は乗れないが、
この「新宿鮫」シリーズは他と比べ作者の気合いの入り方が違う感じで、内容も深く、どれも緊迫感十分の力作ばかり。
「99%の誘拐」
作者 岡嶋 二人 出版社 徳間書店 88年
電子工業メーカーの社長の息子の誘拐事件。
5千万円の身代金と引き替えに子供は戻るが会社の再生資金はなくなり、社長は失意のうちに病死する。
それから時は流れ、新たな誘拐事件が起こる。
井上夢人と田奈純一の共作ミステリーの一作。
派手さはないが、スリル、サスペンス、謎解き、人物描写等すべてに水準以上で、長さも程良く楽しめる。
このコンビの作品はどれもバランスがよく読みやすい佳品ばかりで、他に乱歩賞の「焦茶色のパステル」、「クラインの壺」などがお薦め。
「土俵を走る殺意」
作者 小杉 健治 出版社 新潮社 89年
若手の実力大関である大龍が横綱昇進を辞退した。苦渋に満ちた彼の周りに行方不明の父の影が・・・。
この作品は確か吉川英治文学新人賞受賞作だったと思います。題名は悪いが、本は面白い。
裁判ものが多い小杉健治の作品はどれもドラマ性に富みよくまとまっているものばかりで、それ故かよくTVの2時間ミステリーに使われています。
ただ、まとまりすぎて逆に話に広がりがなく、内容が真面目な一方斬新な驚きが感じられないのが少々不満。
他に「絆」「死者の威嚇」などがお薦め。
「雪よ荒野よ」
作者 佐々木 譲 出版社 集英社 94年
明治開拓時代の北海道を舞台に、銃がすべてを支配する無法の世界を描く4編からなる短編集。
アメリカの懐かしい西部劇映画を彷彿とさせる作品もあり、娯楽性の高い作品ばかり。
佐々木譲の他の作品では、超お薦めの「ベルリン飛行指令」と
「エトロフ発緊急電」の第2次大戦秘話ものが抜群の出来だが、作品の幅は広く、
特に「五稜郭残党伝」以降の開拓時代の北海道を舞台としたものが深みはないが、どれもとても面白い。
「ガダラの豚」
作者 中島 らも 出版社 実業之日本社 93年
大学教授の大生部は呪術師の取材でTV局のクルーと共にアフリカのケニヤへ行く。
そこで呪術師バキリの怒りに触れ、ほうほうの体で逃げ帰るがバキリは一行を追って日本へやってくる。
似非宗教のパロディから始まり、コミカルなタッチを交え緊迫感たっぷりの大オカルトアクション。
単行本で600ページに及ぶ長編だが、ラストまでダレるところなしの面白本。
エッセイ、怪奇小説、コンゲームもの等多彩な中島らもの代表作で、他に「今夜すべてのバーで」「永遠も半ばを過ぎて」など。