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健康コラムHealth Column

健康コラム第5回 頭部外傷による脳疾患についての知識

転倒して頭を打った、スポーツで激しく衝突した、交通事故に遭った…。 日常生活の中で頭に強い衝撃を受けることは、誰にでも起こり得ます。

直後は「たんこぶができたけれど、意識もしっかりしているし大丈夫」と思っていても、頭の中では大変なことが起きているかもしれません。

今回は、頭部外傷によって引き起こされる主な脳疾患と、絶対に知っておいてほしい「危険なサイン」について解説します。

なぜ「頭の出血」は怖いのか?

頭蓋骨は、大切な脳を守る頑丈なヘルメットのようなものです。しかし、その内部は脳と髄液と血液で満タンになっており、余分なスペースは全くありません。

もし、頭部外傷によって頭蓋骨の中で出血が起こると、行き場を失った血液が溜まって血腫(血の塊)となり、脳を強く圧迫し始めます。 圧迫が進むと、脳は逃げ場を求めて、本来あるべき場所から押し出されてしまいます。これを**「脳ヘルニア」**と呼びます。

脳ヘルニアが起こると、生命維持に不可欠な「脳幹」という部分が圧迫され、呼吸停止など致命的な状態に陥る危険があります。これが、頭の怪我が命に関わる最大の理由です。


知っておきたい主な外傷性脳疾患

頭部外傷による脳の損傷は、出血する場所や傷つき方によっていくつかに分類されます。

1. 頭の中で出血が起こるもの(急性期)

受傷直後から数時間以内に症状が現れる、緊急性の高い状態です。

  • 急性硬膜下血腫

    • 脳を覆う「硬膜」と脳の表面の間に出血が溜まるものです。脳そのものの損傷(脳挫傷)を伴うことが多く、非常に重症化しやすい、最も警戒すべき外傷の一つです。

  • 脳挫傷・外傷性脳出血

    • 脳そのものが衝撃で傷つき(挫傷)、脳の内部で出血した状態です。脳のどの部分が傷ついたかによって、麻痺や言語障害など様々な症状が現れます。

  • 外傷性クモ膜下出血

    • 脳の表面を覆う「クモ膜」の下に出血が広がる状態です。(以前解説した「動脈瘤破裂」によるものとは原因が異なります)。

(※他にも、硬膜の外側に出血する「急性硬膜外血腫」などがあります。)

2. CTに写りにくい「見えない損傷」

  • びまん性軸索損傷(びまんせいじくさくそんしょう)

    • 強い回転力などが加わった際に、脳の神経線維(軸索)が広範囲にわたってちぎれてしまう損傷です。

    • CT検査では明らかな出血が見つからないにも関わらず、意識が戻らない、重い障害が残るといった特徴があり、非常に厄介な損傷です。


忘れた頃にやってくる「時間差」の恐怖

頭部外傷で最も注意が必要なのは、**「受傷直後は何ともなかったのに、時間が経ってから症状が出る」**ケースがあることです。

■ 慢性硬膜下血腫(まんせいこうまくかけっしゅ)

これは、ご高齢の方に特に多い疾患です。 頭を軽くぶつけた(本人は覚えていない程度のこともあります)後、2週間?3ヶ月ほど経ってから、じわじわと溜まった血液が脳を圧迫し始めます。

  • 最近なんとなく元気がない

  • 認知症が急に進んだ気がする

  • 歩き方がおかしい(ふらつく)

といった症状が、怪我からだいぶ経ってから現れるのが特徴です。「年のせいかな?」と見過ごされがちですが、簡単な手術で劇的に良くなることが多いので、見逃さないことが重要です。


診断の切り札は「CT検査」と「危険なサイン」

頭を打った際、脳の中で出血が起きているかどうかを素早く確実に診断するには、頭部CT検査が不可欠です。 特に、以下のような「危険なサイン」がある場合は、ためらわずにすぐに救急車を呼ぶか、脳神経外科を受診してください。

【今すぐ受診!危険なサイン】

  • 意識がはっきりしない、ボーッとしている

  • 受傷時の記憶がない、同じことを何度も聞く

  • 激しい頭痛がどんどん強くなる

  • 繰り返し吐いてしまう

  • 手足が動かしにくい、しびれる

  • けいれん(ひきつけ)が起きた

まとめ

頭部外傷は、直後の症状が軽くても、後になって命に関わる状態に変化することがあります。特にご高齢の方や、血液をサラサラにする薬を飲んでいる方は、出血が止まりにくいため注意が必要です。

「頭を打ったけれど、大丈夫かな?」と少しでも不安に思ったら、自己判断せずに、専門医による診察とCT検査を受けることを強くお勧めします。

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