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富士宮市の脳神経外科、外科、内科クリニック。加藤脳神経外科です。

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健康コラムHealth Column

健康コラム第3回 放射線についての知識

被曝とは(放射線の単位)

2011年3月11日の東日本大震災、及びに福島第一原子力発電所事故により被災された方達に、心よりお見舞いを申し上げます。
前回のコラムでは放射線の種類によって体に及ぼす影響がどのくらい違うのかを検証しました。今回はその影響が人体に具体的に及ぼす作用についてご説明します。

1)確率的影響と確定的影響

放射線の障害は大きく分けて、確率的影響と、確定的影響に分けられます。確率的影響とは大雑把には、放射線によって癌(白血病が主)にかかってしまう可能性のことです。放射線による癌へのかかり易さは、は確率に左右される部分が大きく(※つまり細胞が放射線による傷を修復できたかどうか)、微量な放射線でも細胞を修復する遺伝子の異常などで、癌にかかることもあれば、大量に浴びてしまっても、癌にならないこともあるのです。身近な例として宝くじで例えるならば、1枚だけ買って1等1億円当たる人もいれば、100枚買っても300円しか当たらない人もいますよね?でもたくさん買えばそれだけ当たる確率は高くなる。これと同じような事が放射線被曝においても起こるのです。大量の放射線を一気に浴びてしまう急性被ばくと発がんの関係は広島と長崎の原爆においての追跡調査の結果、ある程度の比例関係が認められます。ただ確率的影響は、被爆した放射線量が少ない場合に、放射線以外の原因での発癌との区別は困難です(タバコや食生活)。確率的影響は晩発影響と呼ばれ、最低でも潜伏期間が2年〜10年と長いので、被爆してしまった場合には長期の観察を行うことが望ましいです。ただラドン温泉などの自然放射線が高い地域での平均寿命はむしろ平均より高い場合があり、少量の放射線が体に良い影響を与えるとする、放射線ホメオスタシスを唱える学者も存在します。 大人の場合と子どもの場合では放射線に対する感受性は大きく異なり、また生殖器に対する被爆も奇形発生の確率的影響を高めます。5ミリシーベルト程度で妊娠30週〜40週の被爆では奇形発生率が5倍になるとも言われています。(長いので興味があればこちらへ)

2)必ずおこる確定的影響

確率的な影響は起きるかどうかは運次第でしたが、確定的影響はしきい値が存在します。少ない放射線を長期的に浴び続ける低線量被曝においてはデータが存在しませんが、原発事故や原子力潜水艦で短時間に大きな量の放射線を浴びた場合には量に応じて次の表のようなデータがあります。

全身の吸収線量(Gy)      影響と症状          被爆から死亡までの時間(日)
1Gy             悪心、嘔吐、めまい(放射線宿酔)
1.5Gy(死亡しきい線量)     リンパ球や白血球の障害      30〜60日
3〜5Gy(半致死線量)      消化管の障害、腸管死        10〜20日
7〜10Gy(全数死亡線量)     消化管の障害、腸管死       10〜20日
10Gy〜            神経細胞の損傷による中枢神経死   0〜数日


グレイ(Gy)はテレビでお馴染みのシーベルト(Sv)とは違いますがここでは概念的に同じようなものだと考えて下さい。1グレイつまり1000ミリグレイの全身被ばくを受けると、放射線宿酔とよばれる症状が1割の人に出てきます。二日酔いのような状態が長く続くと思ってください。吐き気、嘔吐、食欲不振、全身倦怠やらが主な症状ですが、いずれは回復する症状です。+0.5グレイの1.5グレイを全身被ばくすると、被爆による骨髄障害から死亡する人が出てきます。身体の中でも特に放射線に弱い骨髄が白血球やリンパ球を作ることが出来なくなって、抵抗力が落ち、感染症にかかりやすくなったり、血小板の減少で血が止まらなくなることによる、骨髄死が主な原因になる。白血球や赤血球は寿命があって寿命までは正常に働き続ける。そのために被爆してから、死に至るまで30〜60日かかる。この間に無菌室で感染症を防ぎ、骨髄移植を行う等適切な治療が出来れば生存率は高まる。さらに3〜5グレイまで浴びてしまうと、被爆した半分の人が死に至る。それまでは骨髄の障害が主だったのが、加えて小腸で吸収を行うクリプト細胞がダメージを受けることによる、粘膜剥離、脱水症状、細菌感染が起こることによる腸死が主な原因です。小腸クリプト細胞の寿命は10日〜20日なので、クリプト細胞の寿命とともに、人体も死に至ります。もっと高い線量の7〜10グレイの全身被ばくを受けると、上記の症状で被爆した人のほぼ全員が死に至ります。さらに高い50Gy以上の全身被ばくを受けると、中枢神経が損傷を受けるため、昏睡状態になり、けいれんを起こしショックで数日以内で死に至ります。これを中枢神経死と呼びます。 以上恐ろしいことばかり書いてきましたが、政府の暫定線量基準の20ミリシーベルトは放射線宿酔を起こす線量の50分の1くらいのものであり、しかも一度に大量の線量を浴びるわけでないので、福島第一原子力発電所から20km範囲外の人がこれらの症状にかかって命を落とすということは、まず無いと思って大丈夫です。放射線は少ない線量でも確率的な影響が否定できないため、できるだけ少ない線量に抑えなければいけません。ただあまり神経質になっても、それが原因で体調を崩すこともあるかもしれませんしね。

※参考文献 放射線概論 (株)通商産業研究社 1989

放射線技師 加藤 学

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