「脳梗塞になったら、もう手遅れ」と思っていませんか? 実は、発症してすぐであれば、劇的に回復する可能性がある標準的な治療法があります。
しかし、それらの治療には非常に厳しい「タイムリミット」があります。 今回は、脳梗塞の超急性期治療とそのリスク、そして再発予防について解説します。
脳の血管が詰まると、その先の脳細胞には酸素や栄養が届かなくなります。 血流が完全に途絶えた中心部分の細胞は、残念ながら数分?数十分で壊死(えし:死んでしまうこと)してしまいます。一度死んでしまった脳細胞は、二度と元には戻りません。
しかし、その周囲には「血流が減って瀕死の状態だが、まだギリギリ生きている」領域が存在します(専門用語で「ペナンブラ」と呼びます)。 この領域は、一刻も早く血流を再開させてあげれば、再び元気な状態に戻る可能性があります。
逆に、時間が経てば経つほど、この「助かるかもしれない領域」はどんどん死滅し、梗塞の範囲が広がってしまいます。 だからこそ、脳梗塞治療は「1分1秒を争う時間との勝負」なのです。

現在、発症早期の脳梗塞に対して行われる、劇的な効果が期待できる治療法が主に2つあります。
タイムリミット:発症から【4.5時間以内】
「t-PA(ティーピーエー)」という非常に強力な血栓溶解薬を点滴し、血管を詰まらせている血の塊(血栓)を化学的に溶かしてしまう治療法です。 カテーテルなどの手術を必要とせず、点滴だけで行えるため、条件が合えば速やかに開始できます。劇的に症状が改善することもある「魔法の薬」ですが、発症から4.5時間を過ぎると効果が期待できなくなり、逆に出血のリスクが高まるため使用できません。
タイムリミット:原則【8時間以内】(条件によっては【24時間以内】まで)
太い血管が大きな血栓で詰まってしまった場合、t-PAの点滴だけでは溶かしきれないことがあります。 そのような場合に、足の付け根などから細い管(カテーテル)を脳の血管まで挿入し、特殊な器具を使って血栓を直接絡め取ったり、吸引したりして回収する治療法です。 t-PAが使えない場合や効果が不十分な場合でも行える可能性があり、近年急速に普及している治療法です。

これらの治療は、成功すれば劇的な回復が期待できますが、強力であるがゆえにリスク(副作用)も伴います。最も注意すべきなのが**「脳出血」**です。
血管が詰まっている間、その先の血管の壁は酸素不足になり、ダメージを受けて脆(もろ)くなっています。 そこに、強力な薬やカテーテル治療で急激に血流が再開すると、脆くなった血管の壁が血圧に耐えきれず、血液が血管の外に漏れ出してしまうことがあります。これを「出血性梗塞」や「再灌流(さいかんりゅう)障害」と呼びます。
特にt-PAは全身の血液を固まりにくくする薬なので、一度出血が始まると止まりにくく、重篤な脳出血を引き起こすリスクがあります。
そのため、これらの治療を行った後は、集中治療室(SCUやICU)に入院し、24時間体制で血圧を厳密に管理したり、出血の兆候がないか慎重に観察したりする必要があります。
急性期の治療を乗り越えても、それで終わりではありません。脳梗塞は「再発しやすい」病気です。一度起こした原因(動脈硬化や不整脈など)が解消されたわけではないからです。
再発を防ぐために、多くの患者さんは**「血液をサラサラにする薬(抗血小板薬や抗凝固薬)」**を退院後もずっと飲み続ける必要があります。
この薬は「血栓をできにくくする」代わりに、**「血が止まりにくくなる」**という副作用があります。
青あざができやすい
歯磨きの時に出血しやすい
鼻血が止まりにくい
胃潰瘍などから出血する(黒い便が出る)
といった症状が出る可能性があります。しかし、自己判断で薬を中断すると、脳梗塞が再発するリスクが跳ね上がってしまいます。何か気になる症状があれば、勝手にやめずに必ず主治医に相談してください。
t-PAもカテーテル治療も、病院に到着してから検査や準備に時間がかかります。「発症から4.5時間以内」に治療を開始するには、一刻も早い病院への到着が必要です。
「片方の手足が動かない」「言葉が出ない」「顔が歪む」といった脳梗塞のサインに気づいたら、夜間でも休日でもためらわずに救急車を呼んでください。
その素早い行動が、あなたや大切な家族の脳と未来を救うことにつながります

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