◎97年3月



[あらすじ]

 ロンドンの精神病院で心理カウンセラーをしているエイリーンは、福祉局から送られてきた孤児ゲアリーを見て自分の死んだ子どもだという錯覚に陥る。 その少年は、誰かが自分を殺そうとしていると言ってわざと精神分裂病の芝居をし、入院を求めていた。 エイリーンはゲアリーの過去を調べていく。

[採点] ☆☆☆★

[寸評]

 幻想的なサイコミステリー。 序盤のエイリーンと夫のいさかいの描写はややもたれるが、中盤からはとてもスリリングに話は進む。 時間的、場所的に大きく広がった話は終盤見事に集結していく。 幻想的ゆえ理解の範囲を超えたような部分も多いが、 終盤は主人公と共に現実と幻想の判然としない世界を漂うような感覚を味わうことになります。


 

[あらすじ]

 古屋克美は男女のもつれから東京を飛び出し、湖畔の寂れたラブホテルに入った。 そこは40過ぎの支配人とその母親の2人で経営しているようだ。 風呂に入るとその間に誰かが無断で部屋に入っていたらしい。 危険を感じた克美は逃げだそうとするが2人が包丁を持って迫ってくる。 表題作他8編の短編集。

[採点] ☆☆☆

[寸評]

 「超絶技巧」「息もつかせぬ叙述トリック!」帯のすごい謳い文句にやられたって感じです。 もちろんこの作者のこと、それなりの水準をどの話も保っていると思います。 途中でネタが割れてもどれも最後まで読ませてはくれます。 表題作など映画の「サイコ」もどきの面白さも持っています。 しかし、ラストのどんでん返しはどれも「ふ〜ん」くらいの驚き?で、折原一には常に水準以上を期待している私としては物足りなかったです。



[あらすじ]

 東京で'夜叉の爪'と名乗る極左過激派による交番爆破事件が連続していた。 警視庁の久我刑事はそれら極左組織摘発のため、スパイ養成などの諜報活動を行う特別講習を警察大学校で受けていた。 一方、西池袋署の悪徳刑事鷲尾は最近急激に台頭してきた新手の売春組織を追っていた。

[採点] ☆☆☆

[寸評]

 2段組450ページの力作。 物語は公安の久我刑事、売春組織を追う鷲尾、そして記憶喪失の青年の3つの話が平行して進められる。 こういった構成では、終盤に3つが交錯して大団円を迎えるのを読者も当然期待して読み進めているはず。 ところが、この作品は肝心のそこが中途半端に終わってしまった。 最後まで読ませるが全体に暴力と陵辱の場面が多くて暗い印象。 同じ公安ものでも逢坂剛の
「百舌の叫ぶ夜」のような不気味な冷たさも感じられない。



[あらすじ]

 合衆国の中枢諜報機関に在籍し冷戦の終結によりリストラされたキースは、25年ぶりにスペンサーヴィルに帰郷する。 そこには徴兵されるまでの6年間愛し合ったアニーがいた。 しかし彼女は結婚しており、夫は町の悪徳警察署長で異常に嫉妬深い奴だ。 再会した2人はお互いの変わらぬ気持ちを確かめあうが・・・。

[採点] ☆☆☆☆

[寸評]

 ストーリーは実に単純で古めかしく、読む前からエンディングが分かってしまう。 それでも上下刊800ページの最初から最後までハラハラ、ドキドキおまけに目一杯やきもきさせられました。 しかし夫婦の諍いや決着の付け方はやはりアメリカ、終盤は過激です。 娯楽性は十分の作品だが、中年のノスタルジックロマンに終始し、テーマ性に乏しいのはこの作者にしてはやや疑問。 それと文藝春秋さん、2冊で5,000円は勘弁してほしい。



[あらすじ]

 シェインはメキシコでは珍しい探偵業。ある日、一挙に3つの依頼が転がり込む。 1919年に殺されたはずが実は生きていると噂のメキシコ革命の英雄サパタを探すこと、 何らかのトラブルに巻き込まれている映画女優マリサ・フェレールのガード、 労働争議中の鉄鋼会社内で起きた技師殺人事件の犯人探し。 混乱しながらシェインは3つの真相に迫っていく。

[採点] ☆☆☆

[寸評]

 約3年前の出版で前から読みたいと思っていたが書店にも図書館にもなくてようやく手に入れました。 珍しいメキシコの私立探偵もので、社会風俗やものの考え方など興味深い点が多い。 また人間がとてもよく描けている。 ただ、肝心の話のほうは3つの調査が同時進行で語られ、主人公の混乱以上に読み手も混乱してしまう。 結局、終盤どうしてシェインが真相に行き着いたのかよくわからない始末。 ユーモア感覚もいまいち。


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