◎05年2月



[あらすじ]

 元警官のクレインは、ニューヨークで親友のベンと探偵事務所を営んでいた。 医者の勧めで左目を休ませるため黒い眼帯をしている。 デパート経営者からの依頼で、今夜も横領していると疑われる店員の住居を見張っていた。 ベンに連絡を取ろうとしていたが、まったく彼の居所がつかめない。 翌日は警察署で聞き込んだり念のため死体保管所まで足を運ぶ。

[採点] ☆☆☆★

[寸評]

 1950〜60年代にアメリカで大量に刊行されたペーパーバックによるハードボイルド・ミステリ作家の一人だった作者のデビュー作。 片目の探偵という設定からしてぞくぞくさせられるが、中の語りもハードボイルドそのもので、雰囲気良し。 妻がいて彼女とのやり取りにも結構ページが割かれているのは珍しい。 物語自体は多少の謎、多少のひねりを混ぜ合わせ、200ページ弱を素早い場面転換で飽きないうちに上手く終わらせている。



[あらすじ]

 大学生の毛利のもとに不可思議な電話が。 今から1時間後に地震が起きると言って切れる。 そして予言どおり地震が起き、風間と名乗る男から再び電話があり、過去への時間旅行への同行を誘われる。 指定された場所に出向くと、同様に風間に誘われた8人が来ていた。 風間は、1か月後、ある場所の時空の裂け目に入ると今年の1月に逆戻りできると言う。

[採点] ☆☆☆★

[寸評]

 "過去の自分に逆戻り"では
「リプレイ」があり、ドタバタ傑作ミステリ「七回死んだ男」があった。 本作では、10か月前という記憶のかなりしっかりした時へ飛ぶわけで、どんな話になるか期待させられる。 ところが意外、メインはリピートした者たちに次々に訪れる運命の真相で、これは「イニシエーション・ラブ」で驚かされた作者お得意のトリックが見事。 ただ肝心の2度目の生活に重苦しい展開が多く、もっと夢を見させてほしかった。



[あらすじ]

 田沼意次の時代が終わりを告げようとする江戸の世。 立原周乃介は刀剣の見立てや仲介、道場の師範代などで暮らしていた。 その棟割長屋に訪ねてきた父が、周乃介の甥の定次郎の行方が知れないと報せる。 奉行所にも顔が利く周乃介がいろいろ手を回すと、大雨の中、深川で見つかった舟の中の斬死体が定次郎だった。 周乃介は犯人探しに奔走する。

[採点] ☆☆☆☆

[寸評]

 江戸の市井に生きる武士が甥殺しの犯人を追うミステリ。 松本清張賞の最終候補作とのこと。 単なる捜査ものではなく、しっかり時代小説の香りを持っているところがいい。 長屋に住む人々との交流、ある因縁から周乃介の家に住むことになる元遊女とのつかの間の暮らし等々、人情ものとしていい味を出している。 犯人を早々割ってしまい、いかに追い詰めるかが見所となるが、終盤のからくり屋敷での闘いはスリルと迫力あり。



[あらすじ]

 バークは太平洋での日本軍との戦いで負傷し、長い病院暮らしからようやく自宅に戻ったが、すでに妻は男と家を出ていた。 戦争が終わって彼はボクサーから取り立て屋を経て、夫の暴力癖に悩まされていた市の実力者の娘の用心棒となる。 結局その職も離れ、バークは、1947年大リーグ初の黒人選手となったジャッキー・ロビンソンのボディガードに雇われる。

[採点] ☆☆☆

[寸評]

 
私立探偵スペンサーシリーズで知られる作者の大リーグを舞台にしたサスペンス。 相変わらずパーカーの描く男らしく、バークは寡黙でタフで非情だが、今回はそのタフさも度を越した感じ。 興味深い設定と速い展開で面白く読ませる本ではあるが採点はちと辛い。 もっとロビンソンのメジャーでの活躍と苦難、野球そのものも描いて欲しかったし、最後までバークと絡む女性が男に都合の良い前時代的な描き方でこれはまずいでしょう。



[あらすじ]

 ジャックはアイルランドの警察官だったが、酒癖が悪く、下院議員を殴って免職となり、私立探偵をしている。 相変わらずパブで飲んでいたジャックは、女性から、自殺とされた16才の娘の死の真相を調べてほしいと依頼される。 実のある調査ができないままパブで泥酔した帰途、男二人に余計なことに首を突っ込まぬよう警告と共に手酷く痛めつめられる。

[採点] ☆☆☆★

[寸評]

 アメリカ私立探偵作家クラブ最優秀長編賞受賞作。 この主人公、完全なアル中で、病院で入院治療を受ける場面まである。 肝心の探偵としての仕事のほうは、突っ込んだ調べに邁進するでなく、なんとなく真相に近づいてしまうようなゆるゆるしたもの。 一方で無類の本好きでもあり、作中の随所に新旧取り混ぜた作家たちの文章の引用が見られる。 一般の私立探偵ものとはまるで異なる、酔いどれ人間ドラマとして面白かった。


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