◎99年2月



[あらすじ]

 大叔父の遺産で富豪となったネイピア家の息子クリスは、20年前父親と対立し家を出ていた。 姪の結婚式に実家へ戻った彼を少年時代の親友ニッキー・ランヨンが突然訪ねてくる。 ニッキーとは、彼の父親が34年前にクリスの大叔父殺害事件の主犯として死刑になって以来だった。 父親の無実を訴えたニッキーは翌日自殺、クリスは真相の究明に乗り出す。

[採点] ☆☆☆☆

[寸評]

 作者の職人技を感じさせる物語性に富んだミステリー。 翻訳もの特有の若干の読みにくさを我慢すれば、あとは巧妙な物語世界に容易に入り込んでいけるだろう。 主人公一族の歴史がとても創造とは思えないほど入念かつドラマチックに組み立てられている。 ラストの一押しがやや余分な印象を受けたが、意外な展開が随所に配され読者の興味をそらさず、複雑な糸の絡みが少しずつほぐれていくような進み方に感心。


 


[あらすじ]

 長野県坂巻町では過疎化を食い止めるため町おこしアイデアを一般公募することに。 営業成績不振で通信機器販売会社を辞めた青柳敏郎は職探しに疲れたある晩、このアイデア募集を知りテーマパーク構想を応募する。 一方、天海原という女性を教祖と仰ぐカルト教団「真道学院」は坂巻町に新ネスト建設を目論み、元自衛隊員の大始祖・丸尾を町に送り込む。

[採点] ☆☆☆☆

[寸評]

 新潮ミステリー倶楽部賞受賞作。 非常にサービス精神の旺盛な娯楽小説で最後まで楽しませてくれる。 細かいところでは描写不足やご都合主義的な展開も少なからずあるが、それがさほど気にはならない。 登場人物が多いが娯楽作品なりにそれぞれ上手く整理して描けており、とにかく面白ければいいじゃんと、この長さを最初から最後まで突っ走るパワーはなかなか大したものです。



[あらすじ]

 溝口昌明は大手地方銀行の課長代理。 社宅を出て比較的グレードの高いマンションを買い、愛する妻と2人の子供との安定した生活。 ある晩、近所のコンビニで30歳前後の真っ赤な髪の女に出会う。 自分とは無縁な別の世界の女。 そのうち下の階の住人が足音やピアノ、掃除の音がうるさいと文句をつけてきたと妻が言い出す。 それがあの赤い髪の女だった。

[採点] ☆☆☆

[寸評]

 4ページから50ページ程度の9編の短編集。 平凡な日常に潜む闇の部分、突如としてよみがえる封印していた記憶、陽の部分に隠されたもう一つの姿などなどが冷めたタッチで描かれる。 ページ数の制約からかどれも描き足りない印象だが、できれば同じ題材で長編で是非読みたいものもある。 中ではオカルト色の濃厚な「デッドガール」と意表をつく幕切れの「六月の花嫁」が面白かった。



[あらすじ]

 ケイはサンフランシスコの写真家。 全色盲でモノクロの濃淡しか見分けられないが、白黒写真で世界を鮮明に写し出していた。 今は、薄暗い街角での若い男娼たちを撮影した写真集を準備している。 ある日、撮影で知り合った男娼のティムから相談がある旨の電話を受け待ち合わせ場所に行くが彼は現れなかった。 翌日切り刻まれた死体となって彼は発見される。

[採点] ☆☆☆☆

[寸評]

 核となる事件に過去と現在の魅力的な謎をうまく絡めて最後まで飽きさせない。 特に中盤に魔術師から語られる物語は抜群に面白い。 また、物語は一貫してケイの目を通したモノクロ世界で描かれるが、それが表面の色に惑わされないシャープで色相の豊かな世界になっている。 期待した衝撃的なラストはやや肩すかし気味だったが、生き生きした主人公には好感が持てサスペンスもほどほどの面白本。



[あらすじ]

 阪大工学部4回生の吉田一彰は昼は運輸倉庫で働き、夜は会員制ナイトクラブのボーイをしていた。 小学校入学前の一時期大阪にいた彼は、その頃よく遊びに行った隣の工場で働いていた中国人に久しぶりに出会い、結局殺人事件の手引きをする羽目に。 そのナイトクラブ内で瞬時に5人を射殺した若い男李歐と一彰は初対面の時から強烈に惹かれ合う。

[採点] ☆☆☆★

[寸評]

 作者の旧作「わが手に拳銃を」を下敷きに新たに書き下ろされた作品。 旧作は6年ほど前に読んだが、さほど記憶に残っていないものの、ほとんど異なるストーリーになっているようだ。 特に前半が良く、作者らしい淡々と、しかしその底に十分な熱を感じさせる執拗な語り口に引き込まれてしまう。 中盤以降はさしたる展開もなく、充実していく一彰の身辺となお続く彼の精神の彷徨が長々と綴られ、李歐の出番が少ないのは不満。


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