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柿の木
原作 周防 元水
第6話
高畠から塩竃まで一日掛けて八頭の馬が年貢米を運び込んできた。荷を解かれなかった二頭の馬の背に括り付けらた年貢米四石は、そのまま都に送られる。
「高畠里蒲生基久」と書かれた木簡は「陸奥国陸前郡多賀郷塩竈里倶厳天満宮籾四石」と書き換えられ、家人となった蒲生基久によって塩竈から大和まで運ばれていく。
家人だけで当の領家から人が付かないのは、その旅が過酷であることに加え、倶厳氏の意志が強く働いているからに他ならない。倶厳氏は、陸前各地の荘園を取り仕切る領家であり、中央と繋がりを持つ政治的支配者に上り詰めていたのである。
政治力は都との結び付きの強さと同等である。その威光でもって税を免除させ土地を安堵させるが故に、豪族からは土地の寄進を進ませることとなる。
大納言として右大臣を補佐する藤原保家を姻族に持つ倶厳知義は、本家として保家を迎えその特権で以て課税逃れを実現した。自らは年貢を上納する荘官に任ぜられ、以て本家の保護を受けてこの地を治める。形の上では保家から任命された地方官の立場となるが、荘園内の警察権・裁判権を持つ実質的支配者となっているのである。
二頭の馬の背に括り付けらた年貢米四石は、名目的荘園領主の保家への上納米なのであり、互いの位置付けを確固たるものにする証となっている。