誰も書かなかった簿記入門
第6版
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簿記とは何か
 簿記の対象となるもの・ならないもの

 企業の事業活動によって生じた収支等を帳簿に記録するとはいっても、何でもかんでも記録す
ると
いうわけではありません。

 企業の事業活動のうち、簿記が帳簿に記録する対象とするものを、「取引」(とりひき)と言います。
 一般的に取引といえば、自分と他人との間でお金や物のやり取りをすること、あるいは、お金や物
のやり取りをする約束(契約)をすることです。

 しかし、簿記上の取引は、一般的に理解されている取引とは少し違います。
 例えば、個人商店の店主が、店で働く家族に給料を支払うのは、簿記上の取引になりますが、将来
お金や物のやり取りをする約束(契約)は、簿記上の取引にはなりません。

 つまり簿記上の取引とは、外部とのやり取りかそれとも内部でのやり取りかは関係なく、企業のお
金や物が増えたり減ったりするという、企業の財産の状態に変化を伴う事業活動のことを言
います。
 逆に言えば、企業のお金や物が増えたり減ったりしない財産の状態に変化を伴わない事業活動は、
簿記上の取引になりませんので帳簿に記録しません。

 財産の状態に変化を伴わない事業活動であるため、簿記上の取引にならないものの例としては、次
のようなものがあります。


 ・商品を納入するようにと、取引先から注文の電話があった。
 ・新商品を発売する取引先を訪問し、新商品の仕入れの交渉をした。
 ・土地購入資金の借り入れを申し込むため、取引銀行に出向いた。
 ・新店舗出店のための土地の購入契約をした。
 ・明日の大売出しの準備のため、残業になった。
 
 これら簿記上の取引にならないものは、いずれも事業活動によって生じたものですが、「商品の注
文」、「仕入れの交渉」、「借り入れの申し込み」、「購入契約」、「残業」をした時点に
おいては、
財産の状態に変化はありません。

 近い将来、財産の状態を変化させるかもしれない原因は発生したかもしれませんが、結果としての
財産の状態には、まだ変化がありません。