◎95年11月



[あらすじ]

 一ノ瀬真理子は高校2年生。 体育祭の終わった日、家に帰りうたた寝から起きると、42歳の夫子あるおばさんになっていた。 職業は高校国語教師。 25年の空白に絶望を感じながらも、やはり高校教師である夫と自分と同い年(?)の娘の助けを借りて、前向きに現実に立ち向かい、難局を乗り越えていく。

[採点] ☆☆☆☆

[寸評]

 これはなかなか元気の出る話であった。 あまりにも健気で前向きなヒロインにはちょっとがんばりすぎ、という感じだが、どうせ作り話。 がんばれ!真理子である。 変に理屈をつけた謎解きや突拍子もないSF的なラストもなく、一人の女性の奮闘ぶりを描いたドラマとして素直にいい小説、と感じる。 途中で親友の池ちゃんを出すと後が苦しいと思って読み進めたが、ラストにちょこっと顔を出させるところもいい。



[あらすじ]

 アメリカ南部の田舎町ゼファーに住むコーリー少年の12歳の1年間の物語。 父親と共に男が殺され湖に車ごと沈められるのを目撃し、火星人の襲来に怯え、自転車に乗って友達と空を飛び、愛犬の死に涙し、川に棲む怪獣と格闘する。 そして様々な出来事の締めくくりとして、冒頭の事件の探偵役となって活躍する。

[採点] ☆☆☆☆☆

[寸評]

 アメリカの田舎町の話なのに妙に懐かしさを覚えてしまう。 特に少年が自転車と一体化して走り回る様は、小さい自転車に乗って誰よりも速く走れると思いこんでいた昔の自分の姿とだぶらせて、もう涙が出るほど同化してしまう。 想像力豊かな少年の心が見事に描かれており、いろいろな話を詰め込みながら、物語の冒頭の事件もしっかりと解決させるマキャモンの筆力には感動もの。 満点!



[あらすじ]

 日本最大の貯水量を持つ奥遠和ダムがテロリストに乗っ取られた。 発電所職員を人質に50億円を国に要求。 拒否すれば人質の命と共に貯水を放出し下流の町を全滅させると脅す。 発電所職員の富樫は危うく襲撃者の手を逃れるが、同僚を殺した犯人に単身立ち向かうためダムへ戻る。

[採点] ☆☆☆☆

[寸評]

 こんなすごい奴いるか?というくらいの日本版「ダイハード」。 以前雪山で友人を置き去りにしてしまいその心の傷を背負って、というあたりはいかにも日本的で、その婚約者が偶然人質に入ってしまうというのも、やや作りすぎ。 が、とにかくアクションの連続でぐいぐい引っ張られてしまう。 また、テロリストに妻子を殺された男がうまく絡みドラマ性が増している。 ただ、警察や国の対応の描き方が定石通りなのはちょっと残念。



[あらすじ]

 新宿署のはみ出し警部
鮫島シリーズ第5作。 チャイナマフィアとイランマフィアの対立を捜査する鮫島に、連続放火犯、外人娼婦殺人犯、そして日本の米を全滅させるおそれのある害虫を追う植物防疫官が絡み、様々な事件、関係者がクライマックスに向かって凝縮していく。

[採点] ☆☆☆★

[寸評]

 読み終わって、新宿鮫の存在感の薄さに少々がっかり。 話はけっして面白くないことはない。 新宿の風俗もよく描けている(らしい)。 しかしもっとストレートに鮫島警部のアクションが読みたかった。 恋人の晶や上司の桃井、鑑識の藪などのおなじみの脇役陣も今回は出番が少なく、植物防疫官の甲屋だけがあまりにいい味を出しすぎて一人目立ったのみ。 巷では、この作者の「天使の牙」が評判が良いらしいが、私はあれも好かん。 主人公の2人を作りすぎている。



[あらすじ]

 大学の薬学部に勤める永島は、不可解な自動車事故で脳死した妻の肝細胞を密かに培養する。 また妻の腎臓は14歳の腎不全の少女に移植される。 肝細胞は異常な増殖を始め、一方少女は夜毎悪夢に襲われるようになる。 やがて増殖した細胞は妻の姿に変容し、永島と無理矢理交わり、少女の身体へと向かう。

[採点] ☆☆☆☆★

[寸評]

 いやはやすごいホラー小説で、読む者の身体までドロドロになるような感覚にさせられる。 作者は薬学の大学院生と言うことで、専門知識も十分だろうが、難解な言葉を並べて読み手が離れてしまわない程度に話がうまく構成されており、後半はスプラッタホラーの領域に入って、これでもか、というところまでやってくれる。 作者は静岡市の瀬名の出身の方だそうだが、次作が楽しみだ。


ホームページへ 私の本棚(書名索引)へ 私の本棚(作者名索引)へ


▲ 大沢在昌「天使の牙」
  女刑事明日香は麻薬組織のボスから逃げ出した情婦を保護に行き殺されるが、自分の脳と情婦の体で蘇る。 悪の組織と結びついた警察内部の腐敗といったありふれた背景は食傷気味だし、あまりにも人が死にすぎるが、とにかくラストまで力技で引っ張っていく筆力には恐れ入りました。