◎11年9月


白樫の樹の下での表紙画像

[あらすじ]

 村上登は佐和田道場で剣術の代稽古(師匠代理で弟子に稽古をつける)を務めているが、1年半ほど前から錬尚館に助太刀を頼まれていた。 急激に門弟の数を増やしている錬尚館には道場破りに来る者も多い。 相手に応対し、道場破りの方から退散するよう仕向ければ二朱、仕合うはめになった場合は一朱の報酬。 今日の相手は四尺五寸という異様に長い竹刀を持ちこんできた。

[採点] ☆☆☆★

[寸評]

 江戸時代中期、武士といえども人を斬ったことのない者たちの心と体の葛藤がポイントとなっている。 松本清張賞受賞作で、ミステリよりスリラーと言えるほど奇怪で残虐な事件が物語の中心だが、同時に貧乏御家人の立場にあえぐ若者たちの苦悩が描かれ、とても新鮮な印象を受けた。 娯楽作としても十分な面白さを持った作品だが、ちょっと主人公を取り巻く狭い範囲に事を集中し過ぎた印象でした。


謝罪代行社の表紙画像

[あらすじ]

 新聞記者だったクリスは、会社の合理化のために首を切られた。 彼は弟のヴォルフと友人タマラ、タマラの親友フラウケの4人で新たな商売を始める。 依頼人に代わって謝罪をする仕事。 過失、誤解、解約告知、揉め事、失敗。 ろくに宣伝もしなかったが、次々に仕事が舞い込んだ。 ある日、マイバッハという男の依頼でヴォルフがある家を訪ねると、女性が磔にされて殺されていた。

[採点] ☆☆☆★

[寸評]

 ドイツの推理作家協会賞を受賞したという、ちょっぴり本格の香りも漂うミステリ。 語り手とともに、過去と現在が短い章建てで次々に入れ替わる、かなり複雑な構成になっていながら、読者を混乱の一歩手前で引き付け続ける面白さを持っている。 終盤はかなり強引な印象を受けたものの、十分4つ星級の作品だと思うが、個人的には、子供を巻き込んだ犯罪はもう沢山だし、犯罪描写がグロいので減点。


ニキの屈辱の表紙画像

[あらすじ]

 村岡ニキは売れっ子の写真家。 23歳だがもう5年のキャリアがある。 加賀美はニキのアシスタントで、彼女よりひとつ年上。 大学生の頃、ニキの処女写真集「車と人間」を見て以来のファンでもある。 彼も写真家志望だが、大学卒業後フリーターだったとき、ニキがアシスタントを募集していることを知って応募し、即決された。 ニキは現場では加賀美のことをやたら格下扱いする。

[採点] ☆☆☆

[寸評]

 二十歳そこそこで写真家としての自信はあるが、対人は仕事関係も恋愛もまるで自信がない女性の話とまとめてしまったら、なかなか後に感想が続かない。 仕事現場で加賀美を罵倒するのも、自らの受ける仕打ちを「屈辱」と感じるのも、彼女の未成熟のなせる技ということか。 その点ではかなりリアルに人間を捉えていると思う。 作者4回目の芥川賞候補作。 幕切れはちょっと安易で、ニキもまだ幼い。


ねじれた文字、ねじれた路の表紙画像

[あらすじ]

 黒人のサイラスは人口500人のミシシッピ州シャボットのただひとりの法執行官。 サイラスは少年の頃、ラリー・オットと一時期友達だった。 ラリーはハイスクール時代、近所の女の子とドライブインシアターに行き、女の子はそのまま行方不明になった。 ラリーは自白せず、死体も見つからず、逮捕されなかったが、以来、ラリーはずっと孤独に生きてきた。 そして25年後、新たな事件が。

[採点] ☆☆☆☆

[寸評]

 少年時代に共に遊んだ2人が、やがてひとりは友達だったと言い、もうひとりはどうだったかなと言葉を濁す。 25年の時を経て、ねじれた路が突然の出来事から交錯し、思いがけない方向へ進む。 終盤の畳み掛ける展開はいいが、ミステリとしては仕掛けも少なく、意外性も少ない。 しかし人間ドラマとして読み応えがある物語。 25年という時間の重みが、読後の余韻を増幅させる。 誤植の多いのは気になった。


本棚探偵の生還の表紙画像

[あらすじ]

 古本道を突き進むマンガ家の作者による本棚探偵の第3作。 「小説推理」誌連載の単行本化。 引っ越したばかりのホームズ研究家の蔵書見たさに押しかけて本棚作りをする話。 台北のブックフェアに本棚探偵の既刊2冊が展示されることになり、台湾の古本屋を目当てに空っぽのスーツケースを下げて旅する話。 イギリスの古本村ヘイ・オン・ワイでの古書まみれの日々など。

[採点] ☆☆☆☆

[寸評]

 
前作から7年ぶりで、やはり函入りだが、今回は二冊組で豆本に変身する月報付き。 内容は相変わらずの古本ネタのオンパレードという特殊本だが、それを心底楽しむ自分もどうかと思いますね。 古本を買いながらマラソンをする”マラ本マン”というルポも笑わせるが、圧巻はやはりヘイ・オン・ワイでしょう。 私には海外古書蒐集の趣味はないけれど、夢のような祭りの日々はよだれが垂れるほど羨ましい。


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