◎14年6月


本棚探偵最後の挨拶の表紙画像

[あらすじ]

 ミステリ、探偵小説を中心に古書蒐集に邁進するマンガ家の作者による本棚探偵の第4作。 「小説推理」誌連載の単行本化。 只見にある昭和三十年代前後の貸本漫画主体のマンガ図書館探訪。 三途の川を渡るとき一つのトランクに入れる本の選択。 本格ミステリ作家・綾辻行人の「暗黒館の殺人」私家版の作成過程の詳細。 探偵作家クラブ(現在の日本推理作家協会の前身)の会報内容紹介 等。

[採点] ☆☆☆☆

[寸評]

 12年前の
「本棚探偵の冒険」以来、今回の四冊目でシリーズは一応の完結となるそうな。 今回の圧巻は、ミステリ研究家・日下三蔵宅の年末恒例の蔵書大片付けに、作者とやはりとんでもない古書収集家の北原尚彦氏が赴き奮闘するエピソードですかね。 日下邸の想像を絶する惨状が多くの写真とともに迫ってきます。 一方、しりとりで20ページ近くつぶしてしまったり、ネタ切れ感も出ていますが、採点は一応の完結を祝してやや甘く四つ星で。 


凍氷の葬られた秘密の表紙画像

[あらすじ]

 カリ・ヴァーラはヘルシンキ警察殺人課の警部。 相棒のミロは頭脳優秀で、知能指数の高い者だけの社交組織「メンサ」のメンバー。 二人はヘルシンキでは新入りで署内でも信用されていない。 深夜シフトで、10日ほど前に自宅で亡くなっていた老婦人の死体を確認した翌朝、女性の殺人事件が回ってくる。 被害者はベッド上で手足を縛られ、煙草を押し付けられたらしい火傷痕が数多くあった。

[採点] ☆☆☆★

[寸評]

 北欧ミステリは近年多く紹介されるようになったが、それでもフィンランドは珍しい。 もっとも作者はアメリカ人で本作はカリを主人公にしたシリーズの2作目。 作者はヘルシンキ在住なので、フィンランドの気候、風土、習慣などがしっかり描かれて実に興味深い。 ミステリとしても面白いが、殺人事件の捜査に、大戦中のユダヤ人虐殺、そしてカリの親族との問題と、盛り込み過ぎの印象。 最後の衝撃で次作も読んでみようという気にさせられた。


硝子の葦の表紙画像

[あらすじ]

 節子の夫・喜一郎は釧路でラブホテル「ホテルローヤル」を経営しており、住宅はホテルと棟続き。 節子は喜一郎の三人目の妻。 ホテル管理はベテランの宇津木とし子に任せ、帳簿を少し手伝い、澤木会計事務所に届けていた。 澤木とは夫と籍を入れる前から関係が続いている。 一方、節子の母は長らく喜一郎の愛人だった。 8月のある日、喜一郎が車の単独事故を起こし意識不明となる。

[採点] ☆☆☆★

[寸評]

 てっきり直木賞受賞作
「ホテルローヤル」の続編めいた本かと思ったら、それより前に書かれた作品の文庫化でした。 ちょっと帯に騙された感はあるが、作者らしい荒涼感のある作品で、無論読んで損はしない。 ミステリとしてはちょっとぎこちない印象を持ったが、作者の他の作品同様、男と女、母と娘といった濃密な関係が、北国の寂寥感をバックに、乾いたタッチ、無駄のない文章で綴られていく。 独特の心象風景の描写には引き付けられる。


凍る炎の表紙画像

[あらすじ]

 警視庁の大友は小学生の息子と二人暮らし。 子育てのために希望して捜査一課から刑事総務課へ異動した、警視庁の中でも異質の存在だ。 昨日の午後、キャリア官僚で刑事部参事官の後山から、赤坂のビルに窃盗団が突入するという情報があるので、捜査三課をサポートするよう要請された。 今日は息子の授業参観で非番にしていたが、張り込みを続けるうちに日付が変わってしまった。

[採点] ☆☆☆★

[寸評]

 かなりなペースで警察小説を量産している作者だが、本作は妻を交通事故で亡くし寡夫となった刑事を主人公にしたシリーズの5作目。 メタンハイドレートを巡るスケールの大きな背景に、事件がいくつか絡み合い、なかなか読ませる。 ただ、前半は大友の家族や個人としての描写・話題も語られていたのに、後半はばっさり切り捨てられた感じなのは残念。 終盤に大きな展開があるが、作者の別シリーズに引き継がれるそうで、次回はそれを読む。


刑事の絆の表紙画像

[あらすじ]

 警視庁刑事総務課の大友が警視庁と目と鼻の先の日比谷公園で撃たれ生死の境に。 大友の昔の同僚で追跡捜査係の沖田も犯人捜しに躍起になる。 追跡捜査係は発生から時間が経ち捜査が滞っている事件のてこ入れをするのが仕事だが、今回は協力依頼がないにもかかわらず勝手に捜査を進めていく。 そして大友が扱った過去の事件から彼に恨みを持っていそうな人間を二人洗い出す。

[採点] ☆☆☆☆

[寸評]

 前回の
「凍る炎 アナザーフェイス5」の続編的作品で、今回の主登場人物は作者の「警視庁追跡捜査係」シリーズの面々というわけ。 国際的な資源技術争奪といった話は結局拡がりを見せず、書名のとおり、警察一家の”絆”を描いた体育会系の少々青臭いが熱い物語になっている。 細かいところはともかく、警官狙撃を受け犯人捜しに突っ走る直線的な話は、娯楽作としてかなり楽しめる。 犯人側のキャラが弱いのは物足りないところだが。


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