[寸評]
日本推理作家協会賞受賞作。
原書の英訳版の翻訳という形を取ったイスラム冒険ファンタジー。
物語の中にズームルッドという伝承者から口述される「災厄の書」の物語が入る多重構造になっている。
この「災厄の書」は実に奇想天外で、まるでファンタジーロールプレイングゲームのような展開。
思わず熱中させられる部分も多いが、全体としては読み進むのにけっこう忍耐を強いられる。
壮大さと面白さと難解さを併せ持つ奇書。
[寸評]
誘拐劇としては少々あっけないものの、テンポよく話が進むので、十分楽しめる本ではある。
特に副社長と犯人側のやり取りなどは、ネット社会に即応したアイデアでよく練られており面白い。
伏線も適当に張られていて、少し穴も感じるものの、計算された造りになっている。
ただ個人的には最初から引っかっかっていたものが終盤にやっぱり出てきたため、あまり意外性を感じなかった。
また、エンディングには不満が残りましたね。
[寸評]
1938年公開のヒッチコック映画「バルカン超特急」の原作小説でようやく邦訳されたもの。
列車という動く密室の中で、失踪した女性の存在を頭から否定する他の乗客たちに混乱させられながら真相を探ろうとするヒロインの活躍(?)は、十分楽しんで読める。
決着の付け方は少々拍子抜けの感もないではないが、乗り合わせた人々の描き分けも見事で、古めかしさが逆に時代の雰囲気を醸し出しているミステリーの名画的作品。
[寸評]
典型的なハードボイルド。
周囲の至る所に敵がいる状況で、何度となく痛めつけられながらも、また見かねた女が去っていくのも構わず、自分のスタイルを押し通す男。
メキシコ国境に近い町の雰囲気、住民の様子が興味深く、前半はすこぶる快調。
しかし話が込み入ってくると上手く整理されていない印象で、テンポが落ちる。
もう少し話の糸をほどいて50ページほど短くまとめればすっきりすると思うのだが。
日本語訳も少し気になった。
[寸評]
会社の課長を務める40代の男を主人公とした5編の短編集。
ハチャメチャな「イン・ザ・プール」の次が実に正統的な中年小説で、作者の実力には驚かされる。
どの話もよくある平凡な設定で、話の流れもさしてドラマチックでもない。
しかし、各々の主人公が自分と世代などが似通っているからか、またその語り口の巧さもあり、あっという間に物語に引き込まれてしまった。
どれも"いかにも"といったまとめ方で終わっていないところもいい。
[あらすじ]
聖遷歴1213年(西暦1798年)、エジプトにナポレオン率いるフランス軍が攻め込んでくる。
当時エジプトは23人のベイ(知事)が支配していたが、その中にイスマーイールという読書家のベイがいた。
彼の筆頭執事は、フランス軍に武力では敵わないと見て、一度読み始めたら読む者を虜にし、やがて破滅させる「災厄の書」を敵将軍に献上するよう主人に提案する。
[採点] ☆☆☆
[あらすじ]
広告代理店勤務の佐久間は日星自動車の新車キャンペーンに自信満々の提案を出していたが、日星の副社長に頭から否定され、担当交代を要求される。
怒りと屈辱を胸に副社長に会うため屋敷に向かった彼は、家から若い娘が抜け出すのを目撃する。
彼女は副社長の長女で、家出してきたと言う。
佐久間と娘は共謀して誘拐事件をでっちあげることに。
[採点] ☆☆☆★
[あらすじ]
ヨーロッパの村でバカンスを過ごしたイギリス女性アイリスは、ホームで列車の到着を待つ間に日射病で倒れてしまう。
幸い発車前に回復し、やっとの思いで乗車した車内でミス・フロイと知り合う。
体の調子がすぐれないアイリスは彼女に薬を貰い、一眠りしてみるとミス・フロイは車内のどこにもいなくなっていた。
他の乗客はもともとそんな人はいないと口を揃える。
[採点] ☆☆☆★
[あらすじ]
テキサス州南部の町サンアントニオ。
ナヴァーは警官だった父を目の前で殺され、そのまま町を出ていたが、昔の恋人リリアンからの突然の連絡で10年ぶりに戻ってきた。
父の事件は容疑者と見られた男が射殺され、真相はうやむやのままだ。
リリアンは再会後まもなく失踪してしまい、ナヴァーは父の事件の再調査とリリアン捜索を始めるが、町の人間は冷たい。
[採点] ☆☆☆
[あらすじ]
42才の荻野春彦が課長を務める営業三課に独身の倉田知美が転勤してきた。
春彦は結婚して15年になるが、部下の女の子を好きになってしまうことが多い。
ただし頭の中で恋愛物語を楽しむだけだが。
知美は幸か不幸か完全に好みのタイプだった。
仕事もでき、落ち着いていて、誰にも好かれる彼女のことで頭は一杯。
知美が若い者と話しているだけで気になる。
[採点] ☆☆☆☆
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▲映画「バルカン超特急」
サスペンス・スリラーの巨匠アルフレッド・ヒッチコックのイギリス時代の作品。
完成がちょうど太平洋戦争の開戦直前でもあったことから日本では公開されず、1976年にようやく実現した。
原題は「The Lady Vanishes」。
原作を活かしつつ、小道具や派手な活劇も駆使したヒッチコック得意の謎と冒険に満ちた作品で、イギリス時代の傑作と言われている。