◎95年12月



[あらすじ]

 ベトナム復員兵のダンは不況で仕事が無く、借金のカタにトラックを銀行に回収されることになり、交渉中に逆上して銀行員を射殺してしまう。 逃亡中に顔半分が醜い女と同行する羽目になる。 また彼を追う賞金稼ぎの三本腕の男とプレスリーのそっくりさん。 彼ら4人の、自己の生きる場所を求めて突っ走る物語。

[採点] ☆☆☆☆★

[寸評]

 マキャモンの前作のファンタジー
「少年時代」とうって変わったロードノベル。 とにかく面白い。 ダンを取り巻く脇役陣が個性的なんてもんじゃなく、精神的にも肉体的にもブッ飛んだ者ばかり。 病んだアメリカを存分に見せながら話は進み、ラストはちょっと先が見えた感じではあったけれど、4人それぞれが生きる場所を見つけ、ほっとした優しさを感じさせる。  



[あらすじ]

 シンガポールの日本人貿易商のもとで働いていた台湾人青年梁が太平洋戦争の渦に巻き込まれる様を描く。 雇い主の娘に思いを寄せながら、図らずも抗日戦線に参加し日本軍と戦う。 一時戦線を離れるが、再び東条英機の暗殺に加担する。 しかしまた成り行きから逆に暗殺を阻止する立役者となってしまう。 戦争と人間のドラマ。

[採点] ☆☆☆☆

[寸評]

 第2次大戦ものが得意の作者だけに物語はドラマチックに展開し映画を見ているような雰囲気。 話がうまく運びすぎるような所もあり、梁の祖国を模索するドラマとしてみると食い足りない作品ではある。 しかし、今年第2次大戦3部作の最終編として発行された
「ストックホルムの密使」が不発だっただけに、この作品は3部作よりずっとお手軽だが、佐々木譲ワールドが楽しめるものになっている。



[あらすじ]

 元整形外科医のクラインは、妻を強姦した罪でテキサス州グリーンリバー刑務所に服役し、所内の診療所の医師をしていた。 明日はようやく仮出所という日、所内で暴動が起きる。 美しいオカマの囚人をめぐる争いに端を発した白人グループと黒人グループの争いは所長の思惑も絡み、すさまじい嵐となる。

[採点] ☆☆☆☆

[寸評]

 このままサスペンスハードアクション映画になりそうな小説。 実際映画化されるという。 特異な登場人物達もアメリカ映画にぴったり。 強者と弱者の明白な狂気に満ちた閉ざされた世界。 そこで少数の者たちが自己の尊厳と城を守るために懸命に闘う。 ただ麻薬・殺人・強姦の世界は迫力はあっても気持ち良く読めるものではなく、クラインの恋人が進んで他の者を誘う場面も私には受けつけられませんなぁ。 ど迫力のハリウッド映画でした。



[あらすじ]

 ノンフィクション作家の鳥飼は、連合赤軍浅間山荘事件の日に軽井沢の別荘で男を猟銃で射殺した女に興味を持った。 本にするため出所した矢野布美子を訪ねる。 彼女は死の病に冒され病院で話を始める。 25年前、バイト先の大学教授とその妻との不思議な三角関係。 真実を知り、鳥飼は本にすることをやめ、教授夫妻を訪ねる。

[採点] ☆☆☆

[寸評]

 全編にヒロイン布美子のほのかな情念が漂う、メロドラマ・ミステリー。 この雰囲気は作者独特のもので、主人公の心理が微妙に変化していき、ついには狂気に至るあたりは話は異なっても、
以前読んだ小池 真理子の作品にはどれも似通ったものを感じた。 ただ、主人公と教授夫妻の関係や妻の行状は、25年前の日本なら布美子の感情の動きも何とか理解できるが、現代ならありふれた関係だろう。 夫妻の秘密も特別驚くほどの設定ではない。



[あらすじ]

 中国は唐代文宗の時代、鄭州の少林寺で育った少女慧玲は、育ての親が死に、実の父親を頼って都長安へやってくる。 しかし、父にかたみの宝剣を奪われ殺されそうになったところを、狂易之と呼ばれ殺しを生業とする美貌の男に助けられる。 彼に一目惚れした娘の純愛と冷酷非情な男の苦悩を描く活劇ロマン。

[採点] ☆☆

[寸評]

 今年の私の収穫のひとつは、
藤水名子を知ったことである。 彼女の作品はどれも昔の中国を舞台に、カッコ良すぎる男や女があくまでもカッコ良く恋をし、敵を倒していく大活劇ロマンで、ラストの余韻もなかなかの、理屈抜きの痛快なものであった。 そこで今年の最後を飾る作品としてこれを選んだのに、ガックリ。 狂易之を慕う慧玲のハチャメチャな活躍とハッピーエンド(らしきもの)を期待して読み進めたのに、後半は実に暗い。 狂易之は姉を犯し、慧玲は・・・、そして何十人もが次々に切られていく凄惨な場面の連続。 期待していたのに、大ショック。


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▲ 佐々木譲「ストックホルムの密使」
 期待してました。 待っていました。 「ベルリン飛行指令」、「エトロフ発緊急電」に続き、どんな人間ドラマを見せてくれるか、と。 しかしちょっと期待しすぎたか、前2作にあった緊迫感も魅力的な登場人物の描写も薄れているような感じでした。

▲ 小池真理子
 近年の作品としては、「夜ごと闇の奥底で」、「ナルキッソスの鏡」、「死に向かうアダージョ」などを読んでいます。 主人公がどんどん追いつめられていく心理描写は独特のものですが、どの作品ももうひとつ盛り上がらないというか、私の趣味と微妙にずれているような・・・。