◎97年5月



[あらすじ]

 若い娘たちを殺害し、それぞれの体をバラバラにつなぎ合わせて遺棄する殺人鬼。 犯人はCIAが旧ソ連から亡命させアメリカに定住させた元KGBの男だった。 密かに事態の隠滅をはかるCIAは、刑務所に服役中の元CIA局員カリーに白羽の矢を立てる。 カリーは元警官の女性新聞記者と行動を共にすることに。 一方、地元の警察やFBIも必死の捜査を続ける。

[採点] ☆☆☆★

[寸評]

 ノンストップアクションというアメリカでの評判どおり、ラストまでスリルに満ちた展開が続きます。 ただ、殺人にしろ小道具にしろ全体が派手過ぎというか、逆に登場人物の描き方が浅いのが残念。 また、テンポを維持するためか、御都合主義的な展開が目立ちました。 生きたまま切り刻む殺人鬼で'受け'を狙っているのか、やはりアメリカは病んでいます。 映画化されるようですが、まさにそのために書かれた小説という感じでした。



[あらすじ]

 イギリスの片田舎に隠棲している探偵ニールに新たな仕事の依頼が。 農業化学会社で鶏糞肥料の研究をしている科学者が中国娘に恋をして無断で長期休暇をとっているので、 彼を連れ戻すという単純な仕事。 しかし科学者を説得中、何者かに銃で狙われ彼らを取り逃がしてしまう。 舞台はアメリカから香港、中国本土へ進んでいく。

[採点] ☆☆☆★

[寸評]

 元ストリート・キッドの
探偵ニールものの第2作。 今回もニールの減らず口は相変わらず快調だが、さすが前回よりは落ちる印象。 作者は中国の近代史にもかなり詳しいようだが、中国内外の政治上の駆け引きや中国高官一家の激しい流転の話が、 ニールを主人公とするこの作品のやや軽めの雰囲気と調和しない感じ。 少々長すぎるのも難だが、後半に登場する伍青年がとても好感が持てるいいキャラで、ラストの一言は最高です。



[あらすじ]

 北朝鮮生まれの父を持つ三上純子は父の懇願によりアフリカはザイールの北朝鮮大使館で働くことになる。 そこでコバルトの買い付けに来た日本人商社員加納と知り合い恋に落ちる。 軍事訓練に赴くザイール軍に付き添って北朝鮮へ戻った純子は、 韓国内まで掘った地下トンネルを使って核基地を奇襲する金正日の野望を知り、阻止を決意する。

[採点] ☆☆☆

[寸評]

 最近何かと話題の北朝鮮と緊迫度の増しているザイールが舞台だが、設定は6、7年前とされている。 朝鮮情勢にまるで疎い私だが、話の展開が速く、設定も興味深く結構楽しめた。 ただ文章が何かあっさりした感じで、緊迫感がもうひとつ盛り上がらない。 また、朝鮮半島とザイール内乱の二股かけた物語だが、地下トンネルを巡る攻防だけで十分1冊になったと思う。 主人公がランボー並の大活躍なのもちょっとやりすぎじゃないの。



[あらすじ]

 私立探偵の碇田に依頼された仕事は新規開店直前のパチンコ店の警備。 過去の因縁から地元のやくざにあくどい妨害工作を受けている。依頼したのは女社長。 夫の警備課長は元ボクサーだが今は喧嘩っ早いアル中で、夫がよけいなまねをしないようにとそちらにも目を光らすよう頼まれてしまう。 碇田を主人公にした全6編の短編集。

[採点] ☆☆☆

[寸評]

 
「ただ去るが如く」が四ツ星だった作者の私立探偵ものハードボイルド。 期待したのですが・・・。探偵に魅力が乏しく、全体に何かひとつずれている感じ。もっと感傷を排して醒めてもいいと思う。 ひねた探偵にしろ、台詞回しにしろ、ストーリーにしろハードボイルドっぽく作ってはあるけれど、雰囲気だけではね。 ただ、6編のうち最近の作品ほど出来がいい。やはり着実にうまくなっている作家で期待させます。



[あらすじ]

 フランチェス子は冷たい彫刻のような風貌ゆえ恋愛にさっぱり縁がなく、在宅プログラマーとしてひとり孤独な日々を過ごしていた。 そんな彼女の体にある日突然しゃべる人面瘡ができる。それも股間に・・・。 古賀さんと名付けたその人面瘡は男に縁のないフランチェス子を毎日罵倒しまくる。

[採点] ☆☆☆★

[寸評]

 いや〜驚きました。 こんな話を女性が書いて(男では思いつきもしませんが・・・)それも堂々出版されるのですから、全く時代は変わったもので(と急に年寄りじみてしまう)。 じめじめ陰湿なのもやだけど、ここまで突き抜けて表現されると少しは隠してよ、てな感じ。 フランチェス子にとっては日常と化してしまったためかやけに現実感のある話が、ラストで急にファンタジーになったようですがまぁ無理ないかな。 作者の苦労の後がしのばれます。



[あらすじ]

 松本にある大崎商事の岳友会の一行5人が、白馬岳から唐松岳への縦走を行った。 途中濃い霧の中、不帰ノ嶮でメンバーの一人笹村雪彦が滑落死する。 遺品を調べていて息子の死に疑問を持った笹村時子は、松本へ向かい関係者を訪ね歩く。 やがて不帰ノ嶮への慰霊登山が行われることになり時子も参加することに。

[採点] ☆☆★

[寸評]

 2分冊で、1冊目が笹村雪彦追悼集の体裁をとっており、遭難事故の記録と時子の手記。 2冊目が追悼集の別冊として雪彦の妹千春の手記(謎解き)という珍しい形式。 しかし体裁にばかり力が入って肝心の中身がおろそかになったようです。 雪彦の死にいろいろの不審点、疑問点を提示しておきながら自殺の方に話を振ったり、思わせぶりな描写が結局そのまま生かされなかったり、 ラストも意外性に乏しい当たり前の結末に終わったようで。 作者には珍しい空振りでした。


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▲「ストリート・キッズ」
 幼い頃からニューヨークでかっぱらいなどをしていたストリートキッドのニールは、銀行の顧客向けよろず難題解決部門の探偵グレアムに拾われ、大学院に通わせてもらいながら探偵をしている。 第1作では行方不明となった議員の娘探しで物語は展開するが、テンポのある小気味よい作品。 減らず口をとばしながら食らいつく本好きの主人公ニールがとてもいい。