「十年程前、バスに乗り遅れて、安曇野を歩いていた時、前庭にリンドウの花が咲き乱れた農家の縁側から明るい灯し火が洩れ、家族の夕餉の楽しそうな語らい、笑い声が聞こえて来たのを垣間見た事がある。その時これが本当の人間の生活ではないかと思ったよ。……寅次郎君。」これは映画"男はつらいよ"の中の家庭的に倖せ薄い老哲学者の話で寅次郎君はすっかり身につまされ、堅気の生活に一旦は戻ろうとする。……そんな件でした。
先年東北新幹線で那須野を通過した時、赤、青茶色等色さまざまの農家の屋根、幾何学模様に耕作された畠や雑木林、まるでフランスの絵画を見ている様な美しさでした。農村も洋風化が進み、食卓も、寅さんの時代のちゃぶ台から、ダイニングキツチンのテーブル、椅子へと変化しました。都会では父親の出退社時刻と子供の登下校時間のズレから、食事時間もバラバラおかずも別々と「孤食と個食」が進んでいます。「鯛も一人はうまからず」と云う諺がありますが、鯛の様なご馳走でも一人で食べてはおいしくありません。粗末な食事でも一家団らんに優るご馳走はないのです。そしてその会話の中から親から、子へそして孫へと、ご家庭に昔から伝わる話、義理、人情や両親を大切にする思いやり、優しさが語り継がれて行くのではないでしょうか。
一家団らんその中でお茶は重要な役割を果たしています。冬の日溜りの縁側での語らい、お茶の間や、ダイニングでの家族、親せき、知己との語らいの中での一杯の温かなお茶に、どんなに心が安らぐ事でしょうか。
お茶はその優れた薬効が次々と科学的に解明されてすっかり、日本国中へ緑茶ブームが浸透しました。そして一層おいしいお茶を求める時代へと移行しています。それだけに私共茶業者の使命も重くなって行くのです。
「友達と、おいしいお茶を飲みながら楽しい日々を送っています」こんなお便りを戴けるのは茶業者冥利につきると思います。
"暮れりや、夜風がそゞろに寒い
さあさ、燃やそよ、ペチカを燃やそ
燃えるペチカに、心もとけて
唄え、ボルガの舟唄を"
こんな夜はしみじみおいしいお茶を味わいたいものです。
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