NO.1 巴里編その1 「某月某日シャノワールにて」

 

 

「改装?」

シャノワールに、素頓狂な声が響いた。

ここは、花の巴里にある「シャノワール」。巴里華撃団の本拠地である。

普段はレヴューが行われ、とても賑やかである。

「改装って、短く言うと、部屋を綺麗にしたりする事ですよね?」

「エリカぁ、それじゃ、短くじゃなくて、説明だよぉ…。」

いつもの事ながら、コクリコは頭を抱えていた。

発言者のエリカは相変わらず…だった。コクリコが嘆くのも、充分過ぎるほどわかる。

「それにしても、また急な話しだな。」

「そうですね。私も、全然聞いてませんでした…」

突然な事に、グリシーヌも花火も戸惑っている。さすがに、いきなりの話では対応が出来なかった。

「それはいいとして、アタシ等はどうするんだよ?グラン・マさんよぉ。」

ロベリアは、イライラしたような口調で、捲くし立てる。ただでさえ急に呼び出されたので機嫌は悪かった。

早いとこ帰って飲みにでも行きたかったらしい。

「ハイハイ、それを今から説明するから、もうちょっと落ち着きな。」

グラン・マの対応は慣れたものだった。そして、グラン・マが口を開き話しはじめる。

閉店後の楽屋に、グラン・マの声が響き渡った。

 

 

「実はねぇ、オーク巨樹の攻撃があった時、シャノワールもだいぶ痛んだけど、

その時、見えない部分がかなり損傷していて、強度に問題ありって事がわかったんだよ。」

グラン・マは、淡々としゃべり続ける。

パリシィと巴里華撃団との間にて繰り広げられた死闘。最終的には勝利したものの、

オーク巨樹による攻撃は、巴里の多くの部分に傷跡を残した。

復興は進みつつあるが、まだまだ時間はかかりそうだった。

「でね、この機会に全体の模様替えも一緒にする事にしたのさ。あと、防御面の強化もね。」

事実、予想以上に痛みが激しく、敵の襲来に対して耐えることが出来ないレベルであった。

そして、これを機に、防御面の徹底的な強化をしようというのが、グラン・マの考えであった。

「それでは、どのくらいの期間がかかるのでしょうか?」

花火が口をはさみ、質問する。

「そうだねぇ、予定としたら、3〜4ヶ月ってとこだねぇ。」

「じゃあ、その間はシャノワールの営業は、どうするのだ?」

「ボク達、どうすれば、いいの?」

グリシーヌとコクリコが続いて口をはさむ。やっぱり自分達の事だから心配なのだ。

「色々と考えたんだけど、改装の間、休業することに決めたよ。」

「ほう、金の亡者がよく決心したねぇ」

ここぞとばかりに、ロベリアが茶々を入れる。

「あんたに、そんな事言われたくないよ。…って、どこまで話したっけ…」

「グラン・マが金の亡者っていうところです!」

「エリカが喋ると話が拗れるから、黙ってて!」

「あう〜、コクリコの苛めっ子〜」

「これじゃあ、いつまでたっても終わらないから、はやく、続きを喋ってくれ!」

たまらず、グリシーヌが間に入る。たしかに、このまま続いてたら話が終わりそうもなかった。

まあ毎度の事だが…。

「私からも、お願いします…。」

少しオロオロしながら、花火も話した。相変わらずの心配性だった。

 

 

「それで、その間の事だけどね、ひとつ提案があるんだけど…」

「アンタの事だ。どうせろくな事じゃないんだろ。アタシは抜けさせてもらうよ。」

間髪を入れずに、ロベリアが一気に捲くし立てた。

「じゃあ、ロベリアは抜きで話しを進めるよ。この期間を使ってみんなで帝都へ行こうと思うんだ。」

予想外の言葉に、ロベリアは飲んでいたカプチーノを吹き出してしまった。

「何だよ、それは?それだったら、アタシも行くに決まってるだろ!」

「おやおや、金の亡者の話しは聞かないんじゃなかったのかい?」

「汚えぞ、グラン・マ!アタシだって、隊長に会いたいに決まってるじゃねぇか!」

ロベリアは、半分頭に血が昇ってるような感じだった。

「はいはい、それまでネ。グラン・マ、続きをお願い。」

コクリコが横から口を挟む。気のせいかコクリコが一番しっかりしているような気がした…。

「ガキは引っ込んでな!邪魔なんだよ!!」

「ひゃあ〜、ロベリアが怒ってるぅ。」

コクリコは、その場から逃げ出した。古人曰く『触らぬ神に祟りなし』といった所か…

「ロベリアさん、そんな乱暴な事は言わないでください。神は申されました…」

「エリカぁ〜、頼むから、これ以上拗らせないでくれ…」

「いいから、引っ込んでくれ!こら、抱きつくんじゃねぇ!!」

「花火…、平和だね…。」

「本当ですね…」

コクリコは、いつの間にか花火と一緒に並んでその光景を観察していた。

花火は、湯のみに入っている日本茶をズズッと飲み干した…。

 

 

「お前さんたち、いいかげん、私の話しを聞いてくれないかねぇ」

グラン・マは、あきれ顔で呟いた。

「話しを聞くから、いいかげん、こいつを何とかしてくれ!」

…まだ、エリカは、ロベリアに引っ付いたままだった。

「エリカ!そこへお座り!」

グラン・マが、怒鳴るように叫んだ。

「はい!」

エリカが、ロベリアから離れ、ちょこんと座った。

「やれやれ…。で、話しの続きだけどね、この前帝都の支配人のムッシュ米田と連絡をとってね、

そういう事なら大歓迎だと。それにね、もし良かったら帝國歌劇団と共演しないかって話しもしてくれたよ。」

「帝國歌劇団と共演?」

5人が、声を揃えて叫んだ。

「共演って言うと…」

「ハイ、エリカは黙っててネ。」

「うみゅ〜」

コクリコに釘をさされ、エリカは、シュンとしてしまった。

「それで、お前さんたちの意見はどうだい?」

「もちろん、やりたいです!」

「ボクも、やりたい!」

「当然だ!」

「まあ、やってやるよ…」

「帝都の皆さんと共演したいです…。ぽっ」

…満場一致で決定した。

 

 

「最も、連続公演は無理だから共演は1日のみとの事だとさ。」

「そうですね、でも1日だけでも帝都の皆さんと共演できるなんて…何だか夢のようです…。ぽっ」

花火は、うっとりしたような目をしながら話した。

「なるほど、帝都の皆と、劇などをするというわけではないのだな。」

グリシーヌはエスプレッソを飲み終えて呟いた。

「もし行うとしたら、2部構成にして最初に私等がシャノワールで

いつもやってるステージを帝都の人に見てもらって、それから帝國歌劇団の芝居をやるという形になりそうだね。」

「それもいいね。本場、仏蘭西は巴里のステージを帝都の連中に見せてやろうじゃないか!」

珍しくロベリアが、やる気に満ちた喋り方をしている。よっぽど帝都行きが嬉しいようだった。

「ムッシュ米田の意見では、まず帝都と巴里のメンバーが揃って、

フレンチカンカンから始めたらどうかと、言ってたね。」

「ダンスコンテスト優勝チーム同士の競演ですか。いいじゃないですか。グラン・マ、踊りましょう!」

エリカも、やる気満々で拳を突き上げた。

「わたしゃ、踊らないよ…。」

すかさずグラン・マが、ボケてみせる。…まあ、グラン・マのレヴュー姿は、あまり想像したくないものだが。

「ボク、なんだか、スゴク楽しみになってきたよ。アイリスと、また会えるんだネ。」

コクリコは、実に無邪気な笑顔で話している。みんなとても楽しそうだった。

そんな中…、

「グラン・マ、共演の事で、やってみたい演目があるのだが…。」

今まであまり喋らなかったグリシーヌが急に話しはじめた。何となく神妙な面持ちだった。

「おや、どうしたんだい?何かあるんなら遠慮なく言ってみな?」

グラン・マが、やさしい目をグリシーヌに向けて話した。

「少し、話しが長くなるかもしれないが、いいか?」

グリシーヌは静まりかえった中、淡々と喋りはじめた…。皆、固唾を飲んで見守っていた…。