NO.0 PROLOGUE

  

「そこ!足並そろえて!違う!タイミングがずれてる!」

夜も深まった大帝国劇場の舞台に、女性の叫ぶ声が響いていた。

「すみません、もう一度やります。」

「ちょっと、失敗しちゃったで〜す。」

「私とした事が…。」

歌劇団のメンバーの声が聞こえてきた。

かれこれ何度目の挑戦だろう。しかし彼女は、まだ納得してはいなかった。

「じゃあ、さっきの所からもう一度。ここからクライマックスに入るから重要な部分よ。ハイ!」

この女性は先程から、何度も厳しい言葉を吐き続けてきた。

でも決して棘のある言い方ではなかった。

そして歌劇団の彼女達もわかっていた。

時間が迫っている事を…。練習する時間は、思っているほど無いことを…。

 

 

「大神さん、どう?少しはうまく出来るようになった?」

先程の女性が、舞台袖の方で休んでいる大神に声をかけた。

「いえ、まだまだダメです。みんなの足を引っ張ってます。」

大神が自信無さそうに答えた。表情はやや固かった。

「そんな弱気じゃダメ!もっと自信を持って!何度も言ってるけど、貴方には素晴らしい才能がある。

まだ、それを生かしきっていないだけ。さあ、もう一度やってみましょう!」

その女性は、大神を力付けようと励ました。

「わかりました。もう一回やります。はやく何とかしないと…。みんな帝都に着く前に…。」

「そう、残された時間は、あまり無いんだから。頑張っていきましょう。」

女性の言葉に導かれて、大神は再び踊りの練習を始めた。

はっきりいって大神の踊りは、まだぎこちなさが残っていた。

しかし、早く踊りの方をマスターしなければならなかった。

特別合同公演までに残された時間は、決して長くはなかった…。