第1章 華撃団、危急存亡の秋

 

 

太正16年、秋…。帝都は、ようやく復興の兆しが見えてきたところであった。

思えば大久保長安の怨霊により、帝都は壊滅的な打撃を受けた。

短期間に飛躍的発展を遂げた街であったが、蒸気に頼りすぎたばかりに、

却ってそれが仇となってしまった。金色の蒸気による暴走…。すべてが混乱していた。

しかし帝国華撃団、巴里華撃団の活躍により、再び帝都には平和が訪れた。

これで平和な日々が続くであろう、誰もがそう信じて疑わなかった。

しかし残念ながら、平和な日々は長くは続かなかった…。

 

 

突然、大帝国劇場に警報が鳴り響いた。束の間の平和は、これをもって終息した…。

「池袋に降魔出現!ただちに作戦指令室に集合してください!」

劇場内にスピーカーから声が鳴り響いた。歌劇団から華撃団に変わる瞬間である。

「まったく…、平和ってのは、何で長く続かないんだ…。」

ブツブツ言いながら、大神は、ダストシュートに飛び込んだ。

長安との戦いが終わってすぐ大神は、巴里、羅馬、維納、伯林、倫敦、上海、

そして紐育へと視察に出かけ、まだ数日前に帰ってきたばかりだった。

しかし長旅の疲れがあるとは、言ってられなかった。

程なくして帝国華撃団のメンバー、副司令であるかえで、さらに米田も顔を出した。

全員が集合したところで、米田が口を開いた。

「本当は、大神に総司令として頑張ってもらいたいんだがよぉ、何せまだ見習いのヒヨッコだ。

緊急事態だから、今回は俺が指揮をとる。で、大神は今まで通り隊長役だ。

いいな!しっかり戦って来い!」

「了解です!」

「うん、いい返事だ。終わったら司令ってのはどうあるべきか、じっくり教えてやるよ。」

米田は、うっすらと笑みを浮かべた。大神に期待しているのであろう。

続いて、かえでが状況を説明した。

「池袋周辺に、15から20体の降魔が出現しているわ。まだ大きな被害は出てない模様。

速やかに排除する事。いいわね?」

「了解!」

「よし大神、出撃命令を出せ!」

「帝国華撃団、出撃せよ!」

大神の号令のあと、全員が光武弐式が配備されている格納庫へと走っていった。

約半年ぶりの出撃…。もちろん光武弐式は、しっかりと整備され磐石の態勢となっている。

「久しぶりの出撃やけど、頼むでぇ。ウチらをしっかり守ってや。」

紅蘭は気合を入れ、光武弐式へと乗り込んだ。

全員が光武弐式に乗り込んだ後、光武弐式は轟雷号に収納された。

池袋に向けて軌道が修正され、弾丸列車轟雷号は、凄まじいスピードで目的地へと向かっていった。

 

 

程なくして轟雷号は、池袋に到着した。すかさず離脱して、光武弐式は敵へと向かっていった。

「そこまでよ!」

降魔の群れの正面に、光武弐式が勢ぞろいした。九体の光武弐式が並ぶ姿は壮観だった。

「帝国華撃団、参上!」

メンバーそれぞれのポーズをとり、見栄を切った。

大神は、まず周辺の様子を見て、すぐさま判断した。

「さくらくん、すみれくん、紅蘭は俺に続いて行動してくれ。

残りのメンバーは、マリアに従ってくれ。二手に分かれて降魔を殲滅する!」

「了解!」

大神たちは、二手に分かれて行動を開始した。

 

 

「でやぁぁ!!」

さくら機の刀が降魔を切り裂いた。しかし、まだ致命傷までは与えていない。

「よっしゃ、ウチが援護するわ。」

紅蘭機から飛び道具が無数に飛来してくる。

「すみれくん、とどめだ!」

「ええ、よろしくてよ。」

大神とすみれは協力攻撃を行い、とどめをさした。

「よし、この調子でいくぞ!」

「了解!」

実戦は半年ぶりだが、ブランクは微塵も感じない、いいコンビネーションだった。

「マリア、そっちはどうだ?」

「問題ありません。引き続き作戦を実行します。」

マリア側も、今のところは順調みたいだった。

 

 

「中尉、降魔をひき付けて下さいな。一気にカタをつけましょう!」

「わかった。ちょっと待ってくれ。」

大神は囮になって、降魔を一箇所に引き寄せた。

「では、行きますわ。神崎風塵流、孔雀の舞!!

すみれの必殺技が豪快に炸裂した。降魔の群れは、殆ど全滅に近い状態だった。

「ふん、チョロいもんですわ!」

すみれの自信に満ちた表情が、目に見えるようだった。

「さすが、すみれはん、役者が違うわ。」

「当然ですわ、オーホッホッホ…。」

「すみれくん、紅蘭、まだ終わってないぞ!」

大神は、すみれと紅蘭に釘を刺した…。

「残りは…、あと少しみたいです。私が行きます!」

さくらが残っている降魔に向かって、刀を抜いた。

残っている降魔は数匹のはず…だった。しかし…、

「これで最後!」

さくらが最後に残っていた降魔を切り裂いた…が、

その陰から突然、新たなる降魔が襲い掛かってきた。

「なに?」

さくらは、完全に不意を突かれた格好で、反応する事が出来なかった。

降魔は凶悪な爪を、さくら機に振り下ろそうとしていた。

(もう、ダメなの?)さくらは、身動きが取れなかった。

「危ない!さくらくん!」

すかさず大神は、さくらをかばいに向かった。

(間に合ってくれ!)

大神はブースターを全開にして、さくらを救出しに飛び込んだ。

何とか、すんでの所で降魔の爪を2本の刀で受け止めた。

「ありがとうございます、大神さん。」

さくらは、心からホッとしていた…。

「良かった、ギリギリ間に合った…。」

大神も、ホッとしていた。だが、僅かにスキを作ってしまったようだった。

突然、降魔は大神機にガッチリ掴みかかった。

強力な力なので、引き剥がすことは出来なかった。

(これは…?何をする気だ?)

予想外の事で、大神は動揺を隠し切れなかった。

そして降魔は…、突然光を発したかと思ったら、なんと自爆をした…。

「うわ〜!!」

どうやら、ありったけの妖力をまとめて放出したらしい…。

それをまともに受けた大神機は…、ピクリとも動かなくなってしまった…。

「大神さ〜ん!!」

さくらは絶叫した。そして目の前の光景が信じる事が出来なかった…。

動かなくなってしまった大神機…。さくらは、それをまともに見ることは出来なかった…。

 

 

「さくら、何があったの?」

心配になったマリアが、通信をしてきた。

「大神さんが、大神さんが…。」

さくらは完全に自分を見失っていた。

「さくら、あなたは今、戦える状態じゃないから帰還しなさい!早く!」

業を煮やしたかえでが、さくらに帰還命令を出した。

「マリア、さくらと大神くんをお願い。急いで!」

「了解!織姫、レニ、そっちは片付きそう?」

「チョットかかりそうデス。レニ、援護して!」

「わかった…。援護する…。」

マリア側は、まだ、降魔が少し残っているようだった。だが…。

「ええ!?また降魔が出たよぅ!」

「オイオイ、マジかぁ?」

しかしこちらにも、新たに降魔が出現した…。

さらに追加して現れた降魔に、アイリスとカンナも絶句した。

「いかん、こっちもや。」

「まったく、三下のくせに…。」

どうやら、紅蘭とすみれの側にも追加して現れたようだった。

「すみれ、紅蘭、一度マリア達と合流して態勢を立ちなおすのよ。

それから大神くんの救出をお願い。」

かえでは状況を判断して、大神の代わりに指示を出し続けた。

しかし、隊員の間には動揺が見え隠れしていた。

大神機が動けなくなり、さらに、さくらは戦える精神状態ではなく離脱している状態…。

新たに現れた降魔を相手に、マリアを中心として態勢を整えたのだが…、

今や形勢は逆転した、といってよい。明らかに華撃団の方が不利のようであった。

 

 

しかしそれでも、マリアを中心とした華撃団は少しずつ降魔を殲滅していった。

「降魔如きに、負けるかよぉ!」

カンナは、降魔に向けて、自慢の拳を振るっていた。

「アイリス、負けないもん!」

神出鬼没のアイリス機が、カンナの協力をする。

「そこっ!!」

指揮をとるマリア機が、さらに援護射撃をした。

「一気に勝負をつける…。ブラウワー・フォーゲル!

ここでレニの必殺攻撃が炸裂した。これで、再び形勢が逆転した。

「まだ終わってないわ。油断しないで!」

マリアは気を抜かず、指揮をとり続けた。しかし…。

突如、地中から降魔が飛び出してきた…。もちろん、全くの予想外の出来事であった。

「何?」

いきなりの事で反応が出来ず、マリア機は降魔に腕を噛みつかれてしまった。

「マリアはん、はよぉ離れて!降魔は自爆する気や!」

大神の事を見ていた紅蘭は、マリアに向かって絶叫した。

「このぉ!」

マリアは、無理に降魔を引き離した。しかし左腕を変な方向に捻ったようで、激痛が走った。

「腕が…、なんて事?」

マリアは大事な場面での負傷に、唇をかみ締めていた…。

「マリア、大丈夫?」

たまらず、かえでから通信が入った。

「すみません、まだ…、やれます…。」

激痛を隠しマリアは強がった。本当は早く手当てをしなければならなかったが、

責任感の強いマリアには、とても途中で逃げる事など出来なかった。

だが、やはり激痛で思う様な行動は出来なかった。

そうこうしているうち、降魔数匹が織姫機に向かい、集中攻撃をしようとしていた。

「イヤ〜、来ないで!」

織姫は、降魔に向けて攻撃を仕掛けるも、それでも降魔は構わず織姫機に突進していった…。

「織姫〜!」

かえでも、ただ絶叫するだけだった。誰しも、もうだめだと思っていた…。

 

 

だが、さらにここで予想外の事が起こった。

「え?何か来るよ?」

「何だい、ありゃあ?」

突然、凄いスピードで真っ黒い物体が向かってきた。

背中に大型のエンジンらしきものが2機。さらに脚の部分にも補助用エンジンがついているらしく、

颯爽とホバリングしてきた。

しかし、光武とは全く違うフォルムだった。

但しあまりのスピードの為、はっきりと確認する事は出来なかったが。

霊子甲冑かどうかは不明だが、何らかの甲冑兵器なのは間違いは無い。

謎の機体は、すかさず刀身が黒い大太刀を2本両手に持つと、

織姫機を襲っていた降魔を一刀両断した。さらに残りの降魔も、返す刀で切り裂いた。

この間、僅かに数秒…。

その勢いのまま、残りの降魔にも向かっていった。

降魔が反応した時には、大太刀が振り下ろされた後だった。

そして1分も経たないうちに、追加して現れた降魔は全滅していた…。

謎の黒い機体は、そのまま何処へと去っていった。

あまりにも大きなインパクトを残して…。

花組のメンバーは、ただ、呆気に取られて見ているだけだった。

「今のは、一体…?紅蘭、新しい光武を製作したの?」

「ウチ、全然知らんがな。初めて見たで、あんなの…。」

紅蘭には、まるで心当たりがなかった。

「でも、助かったデース。」

もうダメだと思っていた織姫は、心から安心して力が抜けていた。

「現時点での、あらゆるデータとも一致しない…。

データ不足で回答不能。敵か味方かさえもわからない…。」

さすがのレニも、お手上げ状態だった。

「それよりも、隊長は?それに、さくらは?」

マリアは、自分の事よりも、隊長の方が余程心配だった。

「なあ、マリアの方こそ怪我してたんじゃないのか?」

カンナも少し心配していた。

「みんな、兎に角、戻ってきて。話は指令室で聞きましょう。」

「了解!」

大きな謎を残して、花組は大帝国劇場へと戻っていった。

それにしても…、何故突然、降魔が現れたのか?あの謎の黒い機体の正体は?

現時点では、全てが不可解だった。

それから解っていることは、大神の意識は、まだ戻っていないと言う事だった…。

大神、マリアの負傷、さらにさくらも落ち込んでいる状態で、

帝国華撃団は、正に大きな危機に直面していた。