韓國語と日本語 


副資料篇もご覧ください (クリックすれば別に開きます)。
@日本語の起源について   A日本語の文法的,音韻的特徴


【前置き】
日本語と韓国/朝鮮語は親族関係にある言語だということは間違いないのだが,語彙の面では英語とドイツ語の間に見られるほどの規則的な類似性はない。両方の言語の先祖探しにあたって,ヨーロッパ諸言語の祖語としての原インド・ヨーロッパ語を推定するに役立ったサンスクリット語のような祖語の類似品を,現存する言語の中から見出すことは不可能に近いようだ。 日本古代史家で計量言語学者の安本美典教授の立てた仮説では,日本語と朝鮮語は今から5,000〜6,000年前に共通の祖語「古極東アジア語」から分かれたものと想定されている。 (別紙の"日本語の起源について"を参照) 無論,歴史時代以降も文化交流を通して一定の分野の単語が日本語の中に取り込まれたことは疑いないところであるが,無理矢理にこじつけたようなものを除けば,その数はそんなには多くないはずである。

<輸入された語彙の例>−文献Aから−
ga-ma([やきものの]かまkama,かまどkamado) naem-bi (なべ nabe) si-ru (せいろ(蒸篭) seiro)
沙匙 sa-si (さじ saji) tang-bal (どんぶり donburi) o-i <古音 o-ri>(うり(瓜) uri)
go-pang-i (かび(黴)___古代の発音では かぴ kapi)  
余談になるが,聾唖者の女優 忍足(オシダリ)亜希子(あきこ)さんの「足」を「タリ」と発音するのは,まさに韓国語そのものだ。 「足る」はそもそも韓国語式訓読みなのかもしれない。

それはそれとして,初めて韓国語を学ぶ日本人が驚くのは,文法的,音韻的特徴に関する類似点が驚くほど多いということではないだろうか。 別紙の"日本語の文法的,音韻的特徴"を見れば,両者が如何によく似ているかが分かる。
私もそういう類似性に対する新鮮な驚きを未だに忘れることができない。 そういう事柄の中から気がついたことを順不同・理論的整理は省略して,以下にく書き連ねてみたいと思う。

  1. 〜してあげる, 〜しておく, 〜してみる などの言い方がある
    〜してあげる()〜しておく( , )〜してある()
    〜してみる()(いま)〜している() 

  2. 一群の相互に関連のある単語の間の音韻類似性が,どちら側にも似たような形で存在する
    現代韓國語同意味の現代日本語同意味の日本語古語
    ko鼻(はな hana )*pana, Fana
    kko(ch)花(はな hana )*pana, Fana
         
    da-ri脚(あし ashi ) 
    da-ri橋(はし hashi ) 
      例外: kkeut(端(はし hashi )]など 
       
    tteu-geob-da熱い(あつい atsui )あつし atusi
    du-kkeob-da厚い(あつい atsui )あつし atusi
    du-teob-da篤い(あつい atsui )あつし atusi
    deob-da暑い(あつい atsui )]あつし atusi
       
    tta-tteus-ha-da暖かい(あたたかい atatakai )あたたかし atatakasi
    発音:tta-tteut-ha-da  
       
    balg-da明るい(あかるい akarui )あかるし akarusi,あかし akasi
    bulg-da赤い(あかい akai )あかし akasi
       
    [例 外]  
    geom-da黒い(くろい kuroi)くろし kurosi
    eo-dub-da暗い(くらい kurai)くらし kurasi
    pu-reu-da青い(あおい aoi)あをし awosi

  3. 日本語との類似音らしきものが垣間見えることばが散見される
    geu-mu-reo-ji-da: @曇り出す,天気が傾く A(心が)沈鬱になる
    geu-mul-geu-mul: @天気がぐずつくようす A明かりが明るくなったり暗くなったりするようす
    しかし, gae-da:晴れる, heu-ri-da:曇っている  には当てはまらない。

  4. 単語,特に動詞の意味の範疇が類似している (2例のみ挙げる)
    tteui-u-da:
        @浮かべる,飛ばす A発酵させる B(時間・空間的に)間を置く
        C(手紙を)出す,(電報を)打つ D(表情などを)浮かべる
    bo-nae-da:
        @送る,届ける A放して自由にさせてやる B(電気・ガスを)供給する
        C行かせる,遣わす D(人を)失う,別れる E結婚させる F(時・歳月を)送る,過ごす
        G(合図を)送る H(視線を)向ける,注ぐ I追い返す。
     ただし"贈る"意味はない

  5. 日本語や韓国語にはあるが英語・ドイツ語にはないことばがある
    なつかしい, geu-rib-da:
     =@ 以前のことを思い出してもう一度会いたいという気持ち
     =A 久しぶりに会ったり見たりして昔を思い出し感激した時の気持ち

  6. 日本語では下肢を表すことばは「あし」しかないが,韓国語では 足首から下を balといい,それから上をda-riという。
    英語でも footと legのように言い分けているし,中国語でも 脚(jiao)[=foot]と腿(tui)[=leg]のような区別がある。要するに日本語のほうが分けて認識することをしていないのだ。 ただ「もも」とか「ふくらはぎ」のような個別の部位名称はある。食肉の習慣があまりなかったので,古代には必要がなかったのかもしれないなどと考えたが,本当はどうなのだろうか。 今はそれでは困るので,漢字を借用して足と脚のように書き分ける人もいるが,境界はあってなきが如きである。

  7. 「いじめ」は韓国語で何というか?
    以前現地でガイドさんから聞いたところによると,直訳では (悩ます,いじめる) だが,(のけ者にすること,締め出すこと) 又は という。 そのものは日本語の「チョーなになに」の「チョー」にあたる。 (チョーいい,チョーいかす)のように使うそうである。

  8. ことばの散歩道 __________"書く kaku" は "掻く kaku" に通ず __________

    "書く"ということばは,"掻く,引っ掻く"と同源であるというのが通説であります。
    ※ 書く=[英語] write,[ドイツ語] schreiben, 掻く=[英語] scratch,[ドイツ語] kratzen
    国語の辞書「広辞苑」には「先のとがったもので物の表面を引っかく意が原義」と説明している。 これは日本語以外の言語でも見られる現象である。

    まず,英語語源辞典などを調べて見た。
    英語 writeの古い形は[アングロ・サクソン語] writanで,その意味は scratch(引っかく),score(刻み目を付ける)である。 これはゲルマン語の推定形 *writanから派生したものと想定される。
    関連する言葉として,
    古スカンデイナヴィア語(OS) writan[=cut,write] ,古ノルウェー語(ON )rita[=score,write] ,ドイツ語(G) Reissen[=tear(引き裂く)] などがある。 恐らく原インド・ヨーロッパ語の *(w)rei-[= scratch]まで溯る。

    フランス語の "書く" は であるが,
    これはラテン語(Latin)の scribereから生まれた言葉である。 ドイツ語の schreibenもラテン語 scribereからの借用語である。
    ラテン語の動詞 scribereの語幹 scriboの意味は
     @ to draw(図や線を引く), trace (a line, geometric figures or something)
     A to inscribe(記(しる)す,彫る,刻む) or write(letters, words)
     B to write (a word) in a specified way
     C to mention or note among items committed to writingrs
     D to put down in writing, make a record of
    フランス語は,「書く」と「刻みつける」の二種類の意味を今も保持している。
    英語 scribe(〜の表面に線を刻みつける)は無論ラテン語 scribere起源のことばであり,describe, inscribeも同様である。

    韓國語ではどうかと見てみると,日本語のような音韻関係が関連語句においては成立しているようだ。
    (sseu-da書く) (jeog-da記す,書き記す)  ,と
    (geulg-da掻く,引っ掻く) (hal-kwi-da引っ掻いて傷を付ける),  とは音が似ていないが,
    (geulg-da) と (geul@文 A学問 B文字) (geul-ssi書かれた字,文字),(geu(s)-da線を引く)
    などの語とは関係があるように見える。


 <出典@:安本美典著 『新説! 日本人と日本語の起源』 宝島社新書>>
 <出典A:鄭大聲『食文化の中の日本と朝鮮』 >

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