ことばの散歩道 __________"書く kaku" は "掻く kaku" に通ず __________
"書く"ということばは,"掻く,引っ掻く"と同源であるというのが通説であります。
※ 書く=[英語] write,[ドイツ語] schreiben, 掻く=[英語] scratch,[ドイツ語] kratzen
国語の辞書「広辞苑」には「先のとがったもので物の表面を引っかく意が原義」と説明している。 これは日本語以外の言語でも見られる現象である。
まず,英語語源辞典などを調べて見た。
英語 writeの古い形は[アングロ・サクソン語] writanで,その意味は scratch(引っかく),score(刻み目を付ける)である。 これはゲルマン語の推定形 *writanから派生したものと想定される。
関連する言葉として,
古スカンデイナヴィア語(OS) writan[=cut,write] ,古ノルウェー語(ON )rita[=score,write] ,ドイツ語(G) Reissen[=tear(引き裂く)] などがある。
恐らく原インド・ヨーロッパ語の *(w)rei-[= scratch]まで溯る。
フランス語の "書く" は であるが, |
これはラテン語(Latin)の scribereから生まれた言葉である。 ドイツ語の schreibenもラテン語 scribereからの借用語である。
ラテン語の動詞 scribereの語幹 scriboの意味は
@ to draw(図や線を引く), trace (a line, geometric figures or something)
A to inscribe(記(しる)す,彫る,刻む) or write(letters, words)
B to write (a word) in a specified way
C to mention or note among items committed to writingrs
D to put down in writing, make a record of
フランス語
は,「書く」と「刻みつける」の二種類の意味を今も保持している。
英語 scribe(〜の表面に線を刻みつける)は無論ラテン語 scribere起源のことばであり,describe, inscribeも同様である。
韓國語ではどうかと見てみると,日本語のような音韻関係が関連語句においては成立しているようだ。
(sseu-da書く) (jeog-da記す,書き記す) ,と |
(geulg-da掻く,引っ掻く) (hal-kwi-da引っ掻いて傷を付ける), とは音が似ていないが, |
(geulg-da) と (geul@文 A学問 B文字) (geul-ssi書かれた字,文字), (geu(s)-da線を引く) |
などの語とは関係があるように見える。