Web小説 Restructure                     原作 周防 元水     
第8話 

 創業以来の生え抜きまでもがここにきて初めて職を辞していく。三郎の麻雀仲間として親しかった3人も揃って辞めていった。技術者が自分を買ってくれる会社を渡り歩くのは珍しいことではない。工作機設計は俗に言う潰しが利く分野なのであって、これまでも出入りは比較的頻繁にあった。しかし今起こっていることはこれまでとは明らかに違っていた。熟練技術者の離職が後を絶たないのだ。にも関わらず引き留めが行われているようにも思えない。若い技術者の補充が急がれ、技術陣の入れ替えが進められていると言っていい。

 築き上げた技術のノウハウはCADによって用を為さなくなっていく。かつて最も必要とされ社の財産とまで言われたエンジニアはその体質改善を求められることとなる。必要とされるものはソフトの活用力であって創造力ではなくなっている。紙と鉛筆での仕事がキーボード相手の仕事へと変わって、熟練技術者は急ぎキー操作を学び始めることとなる。世代間ギャップは推して知るべしであって、これまでとは異なるタイプのエンジニアが幅を利かせ始めるようになる。コンピュータを駆使する彼らは考えもしなかった方法で機械を組み上げていく。

 いずれ技術部の全員がディスプレイを見ながらの設計を余儀なくされる筈だ。試作や現合、無駄な重複設計といった余地は全て排除され、ネットワークの仮想空間内で製品は組まれそして管理される。少品種大量生産で培われた手法が多品種少量生産の代表のような工作機械のこの製造現場にも適用されようとしていた。変化を求める時代は産業の基盤となる工作機械業界にもその対応を迫り、決して例外扱いとはしないのである。
 作業工程の常識は覆され、経験という財産は過去のものとなった。技術者の間に少しずつ動揺と戸惑いの色が出始め、時に疑問となっては噴出してくる。経験が何よりも求められる専用機設計にコンピュータなど導入出来る筈がない。拒絶反応に似たこういった愚痴は分からない話ではなかった。好奇と嫉妬の視線の中で作業を続ける若いエンジニアたちは、新しい企業の強さと同時に脆さをも予感させている。

 仲間が再び一人又一人と去っていく。

右図はH15.2.15 中日新聞より(小説の内容とは一切関係ありません)

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