Web小説 Restructure                     原作 周防 元水     
第7話 

 生産が再開され職場は忙しい日々が続いていた。数々の苦い思い出は過去のものとなって、これでかつての会社が再び蘇ってくる筈だ、もう問題はない筈だと皆はそう思っていた。しかし、三郎には気付いていた。これまでと同じでは済まされない、何かがこの会社に起こるだろうことを気付いていた。

 ユニホームが変わっただけではなかった。システムの根幹が変更されようとしている。半年程して親会社から社員が送り込まれてきた。システム設計の担当者だ。程なく社内にネットワークが組まれていく。三郎の部署にも一人一台のパソコンとパスワードがあてがわれた。机の下にはケーブルが這い回る。ネット上での作業が増え徹底した情報管理を要求される。SAと呼ばれる管理運営システムが働き出すと、掲示板だの電子会議室だのライブラリーだのと諸連絡や打ち合わせはディスプレイ上で行われ処理が進められていく。どの職場もネットワークで結ばれ指示書や稟議書といった書類は影を潜めペーパーレスとなっていく。
 技術職にも改革が及んでいた。初期対応は生産管理部で行われ、出向社員と思われるコンピュータのオペレータが配置されていく。オペレータは複雑な専用機の図面を読みこなし、CADと呼ばれる二次元三次元自動変換ソフトでディスプレイ上に図面を描いていく。巧みなキーボード操作は今後の生産管理の在り方を指し示している。図面は瞬く間にデジタルデータ化されホストコンピュータに送られていく。データの蓄積が進みディスプレイ上の仮想空間で設計・検証が行われるまでになっていく。

 これまで、機械設計は技術陣のチームワークの中で為されてきた。構想図から組立図を起こしていくデザイナー、バラシと呼ばれる部品図を書き上げるディテーラー、組立図と部品図を併せ見て誤記を調べるチェッカー、これらが有機的に繋がり設計全体をまとめあげてきた。これは営々と受け継がれてきた機械設計の手順であり、他に方法を見出せない程理にかなっていた。
 ところがここにきて機械設計の在り方は大幅に集約化され、設計に携わる人の職能分離が急速に進んできた。デザイナーは設計支援ソフトを操り機械の虚像を創造する。そのデータは多様な部署へとリンクされこれまでと比較にならない程の速さで実像を描き出していく。無駄を極限まで省きデータは最大限共有する。1ライセンス1億円程のCADはそれまでの設計や生産管理の考え方を根底から変え、新たに登場したスタッフによって使いこなされ、サーバ上のやり取りだけで様々な課題を片付けさせていく。

 三郎は確信した。生産管理部内で繰り広げられれるこの光景は過去とは無縁の世界であって、多くの仲間のいたあのかつての会社は再び蘇ってくることは決してない。

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