Web小説 Restructure                     原作 周防 元水     
第6話

 不要な部分を削ぎ落とし無駄を許さない自由経済のこの原則は、その過程に悩める人の姿と狡猾な人の姿を巧みに織り交ぜ垣間見せていく。

 現場では、専用機の製作が始まっていた。関連会社で用いるトランスファーマシンである。親会社は自前で生産ラインを組み上げようという訳だ。久々に訪れた工作機械メーカーとしての生き生きとした雰囲気に三郎は日本企業を支える組織力を垣間見た思いがした。歪み除去のシーズニングを施した赤茶けた本体が搬入されると一気に作業は忙しくなっていく。大型工作機械が唸りを上げ機械が機械を作り始める。重量物が組立現場に固定された。部品加工業者のトラックの出入りが激しい。焼入研磨されたシャフト類が揃うと組立がピークを迎えた。重要部品のメタルとベアリングはオイル風呂で熱膨張させ軸に填められていく。精度と直結するキサゲ作業が各所で始まった。金属表面凸部をミクロン単位で剥ぎ取り平面度を限りなく高めていくのだ。長く禁止されていた残業は復活し製造現場全体に活気が満ちている。

 巨大な機械が姿を現し始めると、「現場が怖い。」と言っていた紀子の姿が瞼に浮かんだ。
 紀子のいない経理部は、机の配置が変えられて今では営業部と同じ日本式となっている。課長止まりのこぢんまりとまとまった島は、会社の財務を扱うには余りに卑屈に見えてもう三郎の関心の的ではなくなっていた。技術部と生産管理部を隔てた壁は取り払われ、自由な行き来を可能にしたワンフロアーと化している。拡張を夢見た隣接の社有地は売却され、活動場所を失った野球部は既に廃止されている。秘書や受付嬢、そして職場給食、工具管理、コピー管理の人たちも今はもういない。空調が止められ廊下の蛍光灯が外されている。全員同じ作業服の着用を義務づけられホワイトカラーなる目障りな職層が消滅した。ここにきて初めて、社員は自社が輸送機械業界大手の傘下に入ったことを知ることとなる。

 安堵の色を浮かべる社員の姿を尻目に、三郎はここに居残ってしまった自身を遠くから眺めていた。去っていった仲間の声が聞こえる。使用者側の意図を知り過ぎていた三郎には、空しさ以外の何物も持たなかったのだ

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