Web小説 Restructure                     原作 周防 元水     
第5話

 利潤追求と拡大再生産はワンセットで初めて企業目的として成り立つ。それなのに、こうまであからさまに利潤のみの目的で経営されたのでは社員は堪らない。利益が出ないと察知するとそれまで心血を注いだ筈の会社から、資本と役員を何の躊躇もなく引き上げてしまう。残された会社や社員への社会的責任は一体どうなっているのか。製造業界への資本参加というものは投資会社などではなく、物作りの喜びと苦悩とを理解した同じ製造業界であって欲しい。人件費の圧縮云々の議論が出る前に、素早く自己資本の回収に動いていくという企業論理のその根底には、物作りへの認識不足と社会的責任観の欠如が有るのだろう。

 投資の引き上げは電撃的である。投資した資本の回収は水面下で行われるのを常としている。寝耳に水で資本と役員を引き上げられ窮地に立たされた経営陣は、社の存続の為、なり振り構わぬ行動に出て行くことになる。債権者には法的整理をちらつかせ自主再建の為の債権放棄を求めていく。競合他社には資本参加を打診すると共に、条件としての社内改革に極限のリストラでもって示そうとする。生産力の崩壊をも招く大幅な人員削減が時として行われることがあるが、この裏には企業目的とは異なる大きな訳が存在していることも忘れてはならない。社の形態にはこだわらない乱暴な資産価値回復策には経営陣の個人的理由がついて回る。経営者のお面を被った投資家の姿があらわになる瞬間がRestructureである。組合を刺激しない巧みな人員削減が推し進められる。資産全体の価値が高まると、彼らの狙った外面の良い企業状態が出現する。高度技術のロイヤリティが見込める小綺麗な工作機械メーカーの誕生である。売れる物は売却し省けるものは削減し温存すべきものは確保して、究極的な身売りの為の体質改善が完結したのである。

 多くの離職者を尻目に底を打って安定した株はインサイダー取引の対象から外れていく。自社株を売り抜けた経営陣に代わって新たに大株主となった企業が登場する。新しい経営者と資本が送り込まれてくると装いを新たに本格的な社内改革が始まる。異分野への進出など持てる技術の応用が試されそして活用される。

 朽ち落ちそうになった大木は枝葉を落とされ移植され新天地で蘇っていく。

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