Web小説 Restructure                     原作 周防 元水     
第4話

 組合が機能しない結末は惨めである。

 仕事のない社員は空き地で深い溝を掘っている。排水溝だそうだ。排水溝が急に必要になる筈がない。誰もがそれは方便だと知っている。しかし、だからといってその事を口にする者はいない。無意味な仕事などある筈が無い。離職を誘う意図が見え隠れする。人として大切にしてきた自尊心がいかに傷つけられようとも、抑えきれない疎外感をどれだけ味わおうとも、生活のためには気付かぬ振りをして働き続けるより他はない。会社に対する忠誠心や奉仕の気持ちはつゆ程も湧かなくなり、代わって憂鬱な時の流れが社員の心を支配していく。保身に走る社員の登場で雰囲気は悪化し、そんな会社に愛想を尽かすかのように自分の人生を求めて幾人かの社員がまた職を辞していく。
 当初から人員の削減は指名解雇に等しいやり方で進行していた。ここにきても尚その姿勢は変わることなく続いている。指名解雇が会社の運営上好ましいことは断るまでもない。しかし指名解雇が組合存在と相対することもこれまた言うまでもない。取り得る不況対策はマニュアルとしてどの経営者も胸の中にしまってある。存在感の薄い社員を狙い撃ちして退職をさせることは不況時のセオリーなのである。依願退職に持ち込めればどれだけ安上がりになるか、三郎は紀子から聞いたことがある。解雇では数十万円の給与実損に加え対組合の損失が生じる。信頼関係の崩壊に始まり争議行為や信用の失墜など、有形無形の損失は推し量ることが出来ない程莫大だと言う。依願退職の形にこだわる所以がここにある。三郎が掴んでいた削減人数はこれまで公表された数より遙かに多かった。小出しの形で追加の人員削減数が出され、その度に新たな形での肩叩きが行われても、三郎にとってそれは驚くに当たらなかった。有能な人材の離反防止と併せ、肩叩きによる退職誘導の余地を残す為の措置である。最後まで会社に踏み止まった者でなければ気付かない、巧妙なリストラ策である。

 三郎にとって正義感を逆撫でされる思いがしたのは、違法行為ぎりぎりのリストラ策ではなく、実は、経営者の資質についてであった。タクシーにでも乗り換える様に利潤を追って企業から企業へと資本を移動させる、何よりも己の利益を優先する経営の在り方についてであった。投資家としての経営者のその姿を目の当たりにして、自分とは相容れないものを感じ始めていた。

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