Web小説 Restructure                     原作 周防 元水     
第18話

 生き甲斐は創り育て上げるという苦労と努力の向こう側にある。生き甲斐は時を惜しまずのめり込みそれをやり遂げようとする姿と共にある。

「ああ、私はいったいこれまで何をしてきたのだ。」
 過去の遺物にすがる寂しい日々の自分を自覚し、三郎は恥ずかしさに声を上げた。先に進んでいく者たちは別世界の人に映り、飛び立てず取り残された自分にはトラウマが残った。リストラを恐れる心は三郎に従順な社員を装わせ、喜怒哀楽を奪い去っては過ぎ去ったかつての時代を懐かしませた。

 長引く不況は個々の企業のリストラだけでは解決できない根本的な原因を抱えている。経済成長を止めたオイルショックやバブル崩壊は来るべくしてきたものであり、今想えばこの不況の源ではなかった。少子化と高齢化社会が背後にあったことを今ではいやが上にも認めなくてはならない。魁の企業が、労をいとわず時を惜しまずのめり込む職人気質を育て上げようとしていたのは、時代を先取りする基盤造りに他ならなかった。人材の使い捨て。この事実が不況の遠因となって業績の回復を遅らせていると見抜いていたのである。
 高い失業率とGDPの低迷が如実にこの社会の有り様を指し示している。利潤を求めリストラによってV字回復を成し遂げた企業とリストラにより疲弊し置き去りにされた社会が背中合わせに相並んで見えると、古い価値観の終焉と新しい価値観の登場が予言される。事態を肌で感じるいわゆる賢い経営者が経営の舵を切ることを始めると、それは賢い消費者を眠りから呼び覚まし企業選別のゴングを鳴らす。これまでと全く違う新しい考え方が次々と誘発させられそれが一つの傘の中に集約されてくると、新しい価値観の登場となる。これが社会に認知され育てられやがて人々の生活の規範となってくると、人は求めて止まなかった真の豊かさの姿を目にする事になる。

 皮肉なことに Restructure が社会の隅々にまで行き渡って、初めて企業のあり方が問い直され始めた。安泰と想われた企業が、今、足元から崩れ出していくのを感じ取れる。

 三郎は初めて自身の転職について考え始めた。

TOP Restructure 前ページ 次ページ 先頭