Web小説 Restructure                     原作 周防 元水     
第15話

 丘の上の公園は灌木と芝で覆われている。葉桜がそれを包み込むように生い茂って、長く低い柔らかな光線はこぼれるように辺りに差し込んでいる。三郎はいつものように展望台で一時を過ごすと、緑のドームを抜ける様に一巡しそれから遊歩道を下って行く。しばらくして色瓦が緑に映える豊かな街並みが現れた。道標の指し示す通りに進んで行くと目指す医院が現れる。紀子を目前にして三郎はいささか動揺した。数十歩の距離にある木造建ての白い医院は西日を浴びて燃える様に光りを放っている。あれ程想いを寄せた紅色の世界が目前のそこにあった。次元をすり抜けるかの様な時の展開で三郎の心は烈しく揺り動きそして高ぶっていく。預かっていた書物が握り締められると、三郎は深い呼吸をしゆっくりと受付へと向かって行った。
 そこは南向きで明るい待合室を持っている。注意書きや啓蒙の為の貼り紙が見られない。間取りは簡素ではあるが人に優しい造りとなっている。窓際に並べられた手作り椅子も暖かな家庭の雰囲気を醸し出している。順番を待つ数人の患者も至って健康そうに見え何もかもが明るく感じられる。
 内科のみのこぢんまりとした受付が見えた。その受付の奥に紀子が居た。

 紀子は隣町の開業医の受付として再就職をした。そこで三郎は真の紀子を発見する。白衣に包まれ初々しく仕事をしている紀子は、経理部にいたあの頃と同じ様に際立って眩しく見えた。時折見せる笑顔と健康的なその仕草は、効率を追い求め苦闘する三郎とは余りに懸け離れていて、まるで天使の様に光り輝いて見えた。紀子に強く惹かれここまで来た三郎は、打ち沈み長い時が流れたその訳を今ようやく悟り働いて生きる理の意味を理解していく。

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