Web小説 Restructure                     原作 周防 元水     
第14話

 会社が引けると三郎は真っ直ぐに隣町の丘へと向かった。

 丘の上は公園になっていてそこにちょっとした展望台がある。そこは眺望が良い上にさほど人気も無い。少し回り道ではあるが三郎はここへ寄ってから帰ることが多かった。営業という精神をひどく消耗する部署にいた三郎にとって辺りを紅一色に染める夕焼けは特に印象的で、何もかもを忘れることを望んではよくここを訪れていた。地形ジオラマが目前に広げられた様に、展望台からは10km程が鳥瞰できそしてつぶさに一望できる。東方の山々を西方から放射された紅色が染めていく。眼下には市松模様を形作る緑の田が一面に広がり、そこに細く長く這う様に青の河川が描き出されている。その印象的な原風景は神の贈り物として三郎の打ち沈んだ心を高ぶらせると、やがて穏やかにしそして癒していく。
 丘はその麓に色取り取りの住宅を石垣の様にびっしりと建ち並ばせ、パルテノン神殿のあるアクロポリスもかくあるのだろうと想わせる倫とした威厳を辺りに漂わせている。何物にもひけを取らないこの雄大な自然美は、これまで幾度と無く三郎の心を惹き付けては長い時を流させてきた。三郎は丘に癒され穏やかになって人としての自分を取り戻していく。そこは三郎にとって畏敬の場となり、町を守る城塞の様に自らの力を湧出し奮い立たせる生の源となっていた。

 丘を久し振りに訪れた三郎にはある目的があった。強く惹かれる想いを心に秘めて登ってきた。丘の麓の新興住宅地の一画に三郎の心を揺り動かしては止まることのない人が居る。吹き荒れたリストラの嵐の中で多くの仲間と共に去っていった紀子。社内でかつての仲間の話が出れば心の中の紀子が動き出す。封じ込められていた人への想いが日増しに解き放たれると彼女の存在が否定できない程大きくなって、三郎は今こうして人に尋ねては逢いに来ている。自分がよく訪れるこの丘の麓に医院がある。そこに紀子が居る。三郎にとって驚きの他何物でもなかった。

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